マフラー彼氏
「はっろー!レッドさん、遊びにきましたよー」
「・・・いらっしゃい」
シロガネ山の山頂の、そのまた少し奥。
そこにはかの伝説のレッドさんの居住区がある。
ある程度雨風、というか雪風がしのげるからか、リザードンがいるだけでもその空間はとても暖かくなる。
マフラーと重ねてきた上着を一枚脱ぐ。それでも下に着ているのはコートなわけだけど、レッドさんは相も変わらず今日も今日とて半袖だ。寒そう。
このシロガネ山の山頂ですることなんてレッドさんとのバトル以外にはないんだろうけど、最近じゃバトルをすることは滅多にない。
それというのも、私がバトルをする気がないことをレッドさんが理解してくれたからだ。
そう、私は単にレッドさんに会いに来ているだけなのだ。グリーンさんに頼まれた食料やら何やらを持って。
「はい、レッドさん。食料品とかもろもろ。いい加減グリーンさんにも連絡してくださいね」
「考えておくよ」
返事もそこそこにピカチュウの毛繕いに精を出すレッドさんの頭を軽くはたいた。
頭を押さえて文句言いたげに見上げてきたから、頼まれたんです、と肩をすくめた。本当のことだ。
私は自分でここまで運んできた紙袋をレッドさんの前に突き出した。
「何?」
「聞いて驚いてください!私お手製のマフラーです!」
「へぇ・・・」
僅かに瞠目して紙袋を受け取ったレッドさんはその中から赤を基調としたマフラーを引っ張りだす。
ずるずる、ずるずる。
途切れないそれはやたら長くて、私は口笛を吹いて視線を逸らした。
マフラーは、ゆうに3メートルを超えている。正確にはかったわけじゃないけども、普通のマフラーの2倍あったのは、確認した。
「なんか、長くない」
「だって・・・編みはじめたら楽しくなっちゃって・・・」
「長・・・」
レッドさんの前に立ったまま、私はなんだか申し訳なくなってしまってそっぽを向く。
レッドさんがいつも半袖で寒そうだから編もうと思ったのはいいものの、その作業があまりに楽しくなってしまった、とそういうわけだ。
バトルしているときでも巻いていられるような長さにしようと思っていたんだけど、これだけ長いと、どう考えても邪魔になってしまうだろう。
不意に、足元にいるレッドさんに呼ばれて顔をそちらに向ければ、いつの間にか立ち上がっていたレッドさんにマフラーを巻かれる。その端はレッドさんの首に巻かれていてた。
さすがに2人分の首を巻いて短くなってしまったせいで、距離がひどく近い。
「はい、そっち向いて」
そう言われて大人しくレッドさんに背を向ける形になる。マフラーがもう半周したせいであまりがほとんどなくなる。
座って、と言われて、2人で四苦八苦しながら座る。動きにくい。
先に座ったレッドさんの膝の上に乗る形にさせられる。
そのあとすぐにレッドさんは私のお腹のあたりに腕を回して、その顎を私の頭に乗せてきた。後ろから抱き込まれる形、だ。
ちょ、え、と言葉にならない言葉を、それでも必死に言おうとして意味のわからない声だけが吐き出される。
「こうすれば、ちょうどいい長さじゃない?」
上から満足そうな声が、頭を通して直接伝わってきて、私は顔に熱が集中したのを感じた。
多分私は耳まで真っ赤で、それはレッドさんにはバレバレなのに私はレッドさんの顔を見ることができないのが、少し悔しくてうつむいた。
うつむいたら少しマフラーが引っ張られてくるしかったけど、気にしないでまた少し引っ張った。
不意に耳に息がかかって体が大きく跳ねた。
「うなじまで、真っ赤」
「・・・!!」
マフラー彼氏 レッドの場合