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マフラー彼氏

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ひんやりとした風が流れてきて、私は思わず頬を緩ませた。
次に行く島は冬島だそうで、しかも、今まで通った冬島の中でも、ローさんの生まれ故郷にとても近い気候をしているらしい。
私がわくわくしているのはそれだけが理由ではない。
私は南の海出身だから、雪が珍しくてたまらないうえに、あまり見る事ができなかったせいなのか、とても好きなのだ。
真っ白い雪がはらはらと落ちてくるのを見るのも好きだし、雪が積もったあとの静けさなんてもうたまらない。
ローさんが言うには、雪の量も多いし、今までの中じゃ一番厳しい気候だそうだ。
厳しい、と言われたところで、雪がたくさん、ぐらいにしか考えられない私は、その凍てつく島に近づいていくのが楽しくて、外をずっとうろうろとしている。
冷たい風をきって船が進んで行くのが気持ちいい。
夜はいつもローさんが寒いからと出してくれないから、あまり夜に冬に出た事がない。
暗い中降っている雪を月明かりがほんのりと照らし出す様はきっと綺麗に違いない。
私はうきうきとマストの上の見張り台に登って行く。


「ペンギン、交代にきたよ」
「・・・今日の夜はキャスケットのはずじゃなかったか?」
「変わってもらっちゃった。ふふふ、船長には内緒だよ?」
「まったく・・・」
「告げ口しちゃだめだからね!いわないでよ!」
「さあな」


軽く肩をすくめたペンギンを睨みつけたけど、頭をわしわしと撫でられただけで終わってしまった。どうにもペンギンには子供扱いされているように感じてならない。
見張り台に置いてあった毛布を引っ張りだしてきて、一枚を床に敷いて、もう二枚ほど肩からかけて、さらにもう一枚を膝にかけた。完璧。
まるでだるまのような姿になって、空を見上げる。
まだ雪は降り始めていない。でも、確実に冬島は近づいてきていて、手すりが霜どころか凍り始めているのが見て取れた。
部屋にマフラーを置いてきてしまったのは失敗だったかな、と思いながら被っているニット帽を引っ張って耳を覆う。きっと真っ赤になってるだろう。
はあ、と息を吐き出せば見事に真っ白。なんだかそれすらも楽しくなってしまって、息を吐いたり、それをはらったりをして楽しむ。
そんなことをしていれば、梯子がぎし、と軋む音がした。
キャスでも来たのかと思って梯子の方に目を向ければ、そこに現れたのは見慣れたもこもこの白い帽子。


「きゃ、きゃぷてん」
「・・・本当にいたのか。ペンギンとキャスに言われて来てみれば・・・」


はあ、と盛大にため息をついたローさんに、私は心の中でペンギンを呪った。まあ、筋違いだとはわかっているけど、約束を破ったのはあっちだ。
ローさんはいつものパーカーの上からあったかそうなコートを着て、さらにマフラーまで巻いている。
この空気にふさわしい格好ではあるけれど、なんだか可愛くて笑いそうになってしまって、必死で顔を引き締めた。笑ったら、何をされるかわかったものじゃない。
私の隣に座ったローさんが、私を見て眉をしかめる。


「お前、この寒い中コートも着ないでマフラーもなしか?死ぬ気か?」
「そんなわけないでしょうよ。忘れたんですー」
「はぁ・・・。そんなこったろうと思った」


そう言うとローさんは巻いていたマフラーをとりはじめる。
えっ、まさかあのローさんが私のためにまいていたマフラーを貸してくれるの?いやでもそんなの悪いし、とローさんを止めようとしたところで私ははっとして口をつぐんだ。この人、マフラー二つも巻いてる。
しかも、よくよく見ればそれは私がローさんとお揃いで使っているマフラーの、私の物の方ではないだろうか。


「ちょ、ローさん、その巻いてるのって私のじゃ・・・」
「うるせえ。先にこっち巻いちまったんだよ。それともなんだ?俺のじゃ嫌だっていうのか?」
「いや!そんなことはないです!むしろ嬉し・・・って何言わせるんですか、ローさんの馬鹿!」


私の反応にくつくつと喉を鳴らしながら笑うローさんにパンチを入れようとすれば、軽く受け止められてしまう。
かと思えば、いきなり脇の下に手を差し込まれて、まるで猫をだきあげるかのように軽々と持ち上げられた。
ぎょっとして縮こまっていると、降ろされたそこはローさんの足の間で。
ローさんは私を足の間にいれたまま、さっきまで私が座って温めていた場女にずるずると移動する。


「次の島は死ぬほど寒いぞ」
「聞きましたよ」
「マフラーならまだしも、コートを忘れたら寒さで動けなくなるだろうな。夜なら、なおさらだ。それに、海水の温度も下がってるから、海のほうはさらに寒くなる」
「はあ・・・」
「俺たちは今その海を通っているわけだ。コートを忘れたお前が暖をとる方法がなんだかわかるか?」
「・・・?何が言いたいんだかさっぱり・・・」
「俺の体温でも共有して、暖まっておけ」


そう言うとローさんあ私を後ろから抱きしめると、赤くなっているであろう耳に噛み付いてきた。
ぎゃああああ、とかわいげのない悲鳴が、冬の冷たい海上に響き渡った。





マフラー彼氏 ローの場合
作品名:マフラー彼氏 作家名:ハチ