マフラー彼氏
「あれ、雪降ってる。道理で寒いと思った」
朝食を食べて部屋に戻る途中、真っ白い雪がはらはらと落ちているのがやたらと大きな窓から見えた。
これだけ大きい窓がついていながら暗い雰囲気を醸しだす我らが主ヴォルデモート卿の屋敷には、誰にも目をかけてもらっていないせいで荒れ放題になっている中庭がある。
屋敷の外には出るなと言われているけれど、中庭なら屋敷の中だろう、と私は自分でルールを決めて早足に部屋に戻った。
昨日の夜から降っていたのか、雪は積もっている様子だったし、ルシウスでも引きずりだして雪合戦でもしよう、と頬を弛ませる。
クローゼットを開けて、ホグワーツに行っていたときのコートを取り出す。卒業して時間は経っているけど、屋敷の外に出ない私には上着を買ってはもらえないのだ。
雪合戦をするなら手袋も必要。あと、寒いからマフラーも欲しいなあ。ニット帽は・・・別にいいかな。
そうやって防寒具を身につければ、すっかりグリフィンドール色に染まった自分がいた。
スリザリン出身者がほとんどのこの屋敷の中でグリフィンドール寮は私だけ。まわりが真っ黒な服を着ているなかに普通の服を着ているだけでも目立つのに、この色はより浮いてしまうだろう。ていうか、卿は嫌がるだろうな。
そもそも卿にばれたら出られないかもしれないわけだから、見つからなければ万事解決オールオッケー!
マフラーを巻いて、手袋もして、完全装備になってルシウスを探そうと廊下に出たところで、誰かにぶつかった。
人の部屋の前に突っ立ってるなよ、と文句を言おうと顔をあげたところで私はあ、とおもわず声をあげた。
「・・・そんな格好でどこに行くつもりだ?」
「べべべべつに屋敷の外には行こうとはしてませんよ!ちょっと中庭に雪をですね、見に行こうと思いましてね!」
卿の眉間に深い皺ができている。そんな顔をしていては美形も台無しだ、と言いたいところだけど、美形は美形で、さらには美人が怒るとき特有の、おそろしいほどの迫力があった。
その鋭い視線は完全にマフラーに向いていて、私が中庭に出ると言ったことはあまり気にしていないようだった。やっぱり中庭ならセーフなのかな。
「なんでそんなマフラーをしているんだ」
「だって私そういうの他に持ってないですもん。外に出させてもらえないし」
「・・・・だからといってそのマフラーをする必要はないだろう。私に言えばそれぐらいすぐに用意した」
「いいんですか?私外行っちゃいますよ?」
卿の発言にびっくりして、思わず身を乗り出して聞き返せば、一瞬渋い顔をして、中庭までだ、と呟いた。
てっきりダメなものだと思っていたからこんなにこそこそしていたのに、なんてこと!
でもどうして卿がそこまでマフラーにこだわるのかがわからない。
ホグワーツ時代を思い出すのがいやなのだろうか。それともグリフィンドールが嫌いだ、とか?
「グリフィンドールが嫌なんですか?」
「嫌ではないわけではないが、そういうわけではない」
「じゃあどういう・・・?」
私が疑問の声を再びあげている間に、卿は杖を振ってスリザリンのマフラーを呼び寄せした。
そのマフラーは卿の部屋の方から飛んできて、卿の手の内に収まった。卿の物、だろうか。
卿は無言でマフラーを外し、呼び寄せたスリザリンのマフラーを私に巻いた。ぐっ、と少し強めに巻かれて、少し息が詰まる。
マフラーをぐい、と引かれて卿とおでこがくっつきそうになるくらい顔が近づく。その顔は、まだ少し不機嫌さが残っている。
「お前は、私が与えたものだけ使えばいい。私の色に染まれ」
「うあ・・・・随分と、自分勝手な」
「ふん。なんとでもいえ。お前が私のものであることにかわりはない」
にやりと唇を笑みの形に歪めた卿に、私は眉尻を下げて苦笑することしかできなかった。
いつものこととはいえ、我が主は横暴だ。
ようやく解放されて、私は大きく息を吐き出した。まあ、正直ちょっと怖かったわけだ。言いつけ破って監禁、なんて嫌だったし。
今回はお咎めなしかな、と思いながら卿を見れば、満足そうに笑って踵をかえした。
「ルシウスなら今日はいないぞ」
「えっ」
「出張、だ。遊び相手はいないんだ、部屋でおとなしくしていたらどうだ?」
まさかとは思うけれど、こうなることを見越してルシウスを行かせたんじゃ・・・。
ああっ、してやられた!
ヴォルデモート卿の場合