世界樹の巨乳ハンター
「うん。で、そんだけじゃなくてー、あの彼、巨乳好きこじらせたあげくにデブ專に走っちゃったらしいよー」
けほ、と、小さくソードマンの少女が、ジュースにむせる。まじ? と、小さな問いに、メディックの少女はマジ、おおマジと応え、豊かなおっぱいこそがなんとかと高らかに歌い上げてみせる。ジュースしか口にしていないとは思えないほどのノリだった。
「ぶは、それさいてー。何それカッコいいと思ってたのにー」 机をたたいて笑い転げるさまに、だよねーとグラス片手のメディックの少女が同意する。
「よかったじゃん、アレにひっかかんなくて。コレからは顔で選ぶのやめなよー」
「筋肉専に言われたくなーい。でも、デブ專て」
「全身豊かなら、ニセ乳はいないってゆーけどさー」
「間違ってないかも知んないけどさー」
「そこまで乳が好きかと」
最低、ないわと彼女たちは、けらけら笑い転げる。その横を、飲み物を自分のテーブルに運んでいる(パシリちゅう)のソードマンの少年が通りかかった。
「そりゃあガチガチの洗濯板よりは、柔らかくて抱きごこちがいい方えらぶんじゃね?」
「帰れ自家発電専門機」
そんな楽しそうなさまにかけられたちょっかいに対し、ソードマンの少女は一瞬にして笑顔を収めるとそう言いはなつ。少女の言葉に対し少年は、不思議そうに首を傾げた。帰れはもちろん理解できるが、その後の言葉が理解できなかったのだ。「センズリこくしか能のないやつはさっさと帰れって意味だな」
少年は、少女たちの近くのテーブル――そこそこにものなれた様子の冒険者たちのテーブルに飲み物をおいた。その中から蜂蜜酒を受け取ったアルケミストの男が、そう解説する。もちろん、少女が騒ぎを起こした彼ではない。少年と同じギルドのアルケミストだ。
「な、な、なな……」
発電機を知ってるのか、大したもんだな、と。とろりとした琥珀色の液体に口をつけつつ、のんびりとそう口にするアルケミストの男。そして、一片たりとも彼に関心を残してはいないといった様子のソードマンの少女。それらを交互に見、ソードマンの少年は顔を上気させた。
「昼間っから何言ってんだよアンタら!」 一拍遅れてカウンターをくらいきゃんきゃん吠えるソードマンの少年の姿を、鼻息一つで無視し、ソードマンの少女は自らのグラスをあけた。
「かえろっか」
こんにちはー、おひさしぶりですー、と。そう言って、少年の属するギルドメンバーに対し手を振るメディックの少女に対し、ソードマンの少女がそう口にする。そだね、と。そう言って、メディックの少女も自分のグラスをあける。
そうやって、席を立とうとしたときのことだった。勢いよく酒場の扉が開く。先日の騒ぎを思い出したのか、メディックの少女が素早く立ち上がった。
だが。当然と言えば当然のことながら、あらわれたのはただの冒険者だった。たくましく日焼けした筋肉質の身体を持つ彼女は、パラディンかソードマンあたりだろうか。武器鎧を身につけていなくとも、その体形と身のこなしからして、冒険者、それも前衛職であることは間違いないだろう。 思い切りよく持ち上がった胸と、大きな尻を揺らしながら、彼女は女将のいるカウンターへと向かった。
「ふああ、プロポーションいいなぁ」
メディックの少女が感嘆の声をあげる。ソードマンの少女はぎゅっと唇をかんだ。
最近、世界樹へとやってきたんだとか、ここで仕事を受けられると聞いただとか。ある意味おきまりとも言えるやりとりをした後、彼女はそういえばと言った。
「この街って、鎧を特注できる工房ってあるの?」
無駄に声が大きい。普通の女ものだと胸が苦しくって、走るのに不便だとか何とか。世の中の女ものの鎧はどうしてあんなに小さいのだとか。女将が必要とする三倍くらいのことを言い募り、女性は豪快に笑った。 それがなきゃ女にみえねーんだろとか、そんな野次に対し、鍛えあげた結果だ、なんなら勝負してみるかと胸を張る女性。
「……?」
メディックの少女は、かたわらのソードマンの少女をうかがった。彼女の口元には、くっきりと怒りの梅干しが浮いている。
「乳のない戦士なんぞに、私は決して負けん!」
カウンターの女性が、そう大見得を切った瞬間、ソードマンの少女はかけ出した。戸惑うメディックの少女を残し、不気味な笑いを響かせつつ、ものすごい速度で店を出ていく。
がんばれ巨乳ハンター、負けるな巨乳ハンター、次の乳は筋肉だ。当分、エトリアに静かな日々が訪れる予定はない。
fin.
作品名:世界樹の巨乳ハンター 作家名:東明