ESCAPE!!
「きさらぎいぃぃいいぃぃっ!!」
「目上には敬語使えばーかっ」
ハハっと実に楽しそうに笑いながらかれ、如月は走る足を止めない。
わきに抱えてるのはもちろん、エントが今いる場所から盗んできた住人であり、
今の彼にとっては大きな大きな「荷物」。
赤い髪の荷物は叫んで抗議を続け、ジタバタ暴れるも、如月の腕は彼を
下ろそうともましてや離すなんてもってのほか。とでも言いたげに
抵抗をいとも簡単に受け止めている。
「今日はおれが燠と遊ぶんだよ!!返しやがれ!!」
「俺はそんな約束しりませーん★」
「うぜええええええええええ!!」
そんなバカみたいなうざい会話を繰り広げながらも如月は足を止めない。
軽快に。あくまで軽快に。彼は足を止めない。いまのうちにすこしでも
自分とエントの間の距離を長くするために。
相手を怒らせるような口調にしたのも彼が窓際に立ったままの状態で
あることを彼に意識させないようにするためだ。
基礎体力は彼のほうがあるし、なにより彼のあしはすごく速い。
如月も早いほうではあるが彼ほどではないので今のうちに少しでも
歩を進めなければならないのだ。
しかし、エントも馬鹿とは言われるがそこまで馬鹿でもなく、すぐに
目的の燠を連れ戻すため、窓枠に足をかけ、飛ぶ。
そして、一目散に駆け出す。
もちろん、叫びながら。
「つーかとまれてめぇっ!!」
「とまれと言われて止まるやつじゃねーんだ俺。」
「知ってるわ!!」
「じゃ言うなよ。」
そんな話をしている間にいも如月とエントの距離はだんだんと
短くなってきている。ちなみに荷物、燠は何をやっても彼の細いのに
異様に強い腕にはかなわないことを理解し、抵抗をやめめんどくさそうに
あくびをひとつ。もはやあくび1つかますことすら彼にはめんどくさくて
仕方なかった。
縮む縮む。距離はさっきまでの距離の半分ほどになっている。
なのに、如月は余裕の笑みを崩しはしなかった。足取りも、軽快なまま。
それもそのはず、もうすぐ予定の時間。
彼の逃走具が現れる時間。
「おい、糞猿っ」
「あ”っ?」
走る走る。そして、如月はついに足を止める。
やっと観念したか。そう思いエントは今までより何割増しかで速く走る。
ただ、如月の余裕の笑みにだけ、違和感を感じながら。
「おにごっこは、おわりだ」
言うと同時。まさにナイスタイミングで一台の黒い車が現れる。
運転席に座るのはみなくてもわかる。如月の腐れ縁の相手。なんだかんだ
でいつも如月のためにうごいている。
「黒木おそい。」
「むかえにきてやっただけいいとおもうんだけどな。」
黒木。
言うが早いが如月はイクを車の中にぽいっと投げて自らも車に乗り込む。
あと、数mのところで車は発車しエント一人を残して行ってしまった。
いくら足の速いエントといえど車にはかなうはずもなく、その場に崩れる
ように座り込む。荒い息を整えながらせっかく走ったのにおいつけなかっ
た悔しさを拳にこめ、地面にたたきつける。
すると、発車した車の窓から目的の彼、燠とあの忌々しい顔が姿を現す。
イクが何より必死そうな、こらえきれないような顔をしてるのを見て、
なぜ追いつけなかったのか、悔しさがまたこみあげてくる。
が。
「エントー!!」
「・・・・燠っ!!」
「ドラマ録画しといてなー!!」
ズゴンっ
盛大な音をたててエントの頭は地面にあいさつした。
なんだ、それは。あの顔で、この状況で、
(それ、いわねーだろ!?)
期待を盛大に裏切られたショックと自分に対するいたわりの言葉がなか
ったこと、それと連れ去られたというのにむしろ普通みたいな顔をして
る燠を見て、エントは返事を返すことはできなかった。
車は走る。目的の如月の家に向かって。
はあ、と何度目かのため息をついてエントは立ち上がり、
仕方がない、と彼自信の家へと帰ろうとする。
しかし、開けっ放しにしてしまった窓が気になり窓を閉めるためだけに
もう一度燠の家へと重い足を引きずりながら向かう。