cry
『殺してやる・・・・』
『許さない・・・』
『俺はあんたを・・・見つけ出す』
『殺してやる』
【 cry 】
「・・・佐・・・大佐・・・大佐っ!!!!!」
「・・んん・・・」
「大佐、大丈夫ですか?」
「・・エルリックか、」
「随分うなされてましたけど、悪い夢でも?」
「あぁ、まぁな。」
「仕事中に寝るからです。」
「すまない。」
「謝るなら中尉に、探してます。」
「分かった。」
「中尉は司令室です。俺は昼飯に行ってきます。何かあったら呼んで下さい。」
「あぁ、ゆっくり食べてくるといい。」
金色の髪を一つに結い上げ、軍服を綺麗に着こなした私の部下。
私のとても優秀な部下の一人。
金色の眼でいつも真っ直ぐに信じてついてきてくれる。
だが、私はそれが恐ろしい。
いつ、その眼が怨みに満ちるのかと・・・
毎日のように見る夢が、忘れるなと訴える。
忘れようと思ったことはない。
だが、心のどこかで忘れようとしている。
忘れたいと願っている。
・・・腐った心、腐った体。
足が重くなる。
ズシリ、ズシリと、毎日少しづつ。
だが、私は立ち止まるわけにはいかない。
この腐った体でもやるべきことがある。
やれることがある。
「中尉、呼んだかな?」
「何を呑気に、死にたいんですか?」
「・・・・・すまなかった。」
向けられた銃口が静かに下ろされる。
そのことにホッとする。
「顔色が優れないようですね。」
「・・・・死ぬかと思ったからな。」
「それは自業自得です。そうではなく、入ってきたときから顔色が悪いようですが・・・」
「・・・・・夢見がね。」
「またですか、」
「・・・・・慣れないものだ。」
「なぜ傍に置いておくのです。」
「私を殺す者が居るなら、彼がいいと思ってね。」
「本当は許されたいと願っているのではないですか?」
「・・・・・・厳しいね、君は。」
「私はあなたを守ります。」
「心強いな。」
「私はためらいなく撃ちます。」
「・・・・・・そうか。」
彼女は本当にためらいなく撃つだろう。
殺してでも私を敵から守るだろう。
それが同僚であっても。
エルリックに初めて会った時は、まだ彼が幼い頃だった。
私は彼の母親を殺した。
言い訳をするならば、それが私の任務だった。
何故殺さなければならないのか、理由などは聞かされなかった。
ただ『殺せ』と命じられた。
そんなことは日常茶飯事で、私は気にもとめていなかった。
倒れていく彼女の影から幼ないエルリックが姿を現した。
私はその小さい気配に気付かず、彼の目の前で母親を殺してしまったのだ。
理解できずに呆然と立ち尽くす彼を置いて去ろうとした。
だが、私がドアを閉める直前彼は私を真っ直ぐ見た。
『殺してやる。』
軍人として身につけた技が声の出ていない言葉を届かせた。
私はなんて愚かな人間だ。
心の片隅では確かに感じていた疑問。
だが、それは片隅に置いておかなければならない。
気づかないフリをしなければならない。
それが暗黙の了解。
私の覚悟が決まった時、
すでに私の両手は腐りきっていた。
エルリックは国家錬金術師となり、この軍に現れた。
母親を殺した軍人を探しに。
当時ホーエンハイムという性を名乗っていたエルリックに気付かず、若く優秀なエルリックを軍は歓迎した。
彼は私の名前も知らず、顔も忘れていた。
あの場を共にしていた中尉には反対されたが、私の部下に配属させた。
なんて美しいのだろうと思わずにはいられなかった。
彼は守らなければならない。
こんな体でもいくらかマシだ。
彼だけは、エルリックだけは・・・・・
それから3年が経つが、まだ気付かれてはいない。
軍には、私の知る限りあの件に関する資料は残されていない。
私が言わなければエルリックが知ることはないのかもしれない。
だが、私は言わない。
卑怯だろう。
そんなことは百も承知だ。
「大佐、俺はこれで失礼します。」
「その前に、資料室に付き合ってくれ。」
「イエッサー。」
中尉の視線が突き刺さる。
彼女はおそらく扉の向こうで待機するだろう。
私が殺されないように。
私は時々こうしてエルリックに調べる時間を与える。
自力で資料室で調べていた彼に私から声をかけた。
エルリックから何を調べているかを聞いたことはない。
だが、聞かずとも調べることは分かっている。
あの日、あのときの軍人の正体だ。
私はこの国の過去を知ることは良いことだと適当に理由をつけて、尉官では入れない資料室の閲覧を許した。
この資料室にあるものでさえ、都合の良いように書かれたものばかり。
だが、少しのズレもいつしか大きなズレになる。
見つけ出すかもしれない。
答えに気付くかもしれない。
目の前人物だと気付いてしまうかもしれない。
それでも私は、エルリックに調べる時間を与える。
彼が早いか――
私が早いか―――
「大佐、俺が何を調べてるか気になりませんか?」
「気にならないな。」
「何故、ですか?」
「さあね。」
「さあねって・・・」
「話したければ話せばいい、話したくないのなら話さなくていい。」
「・・・・いつか、大佐には全部話します。」
「そうか。」
「俺、大佐の部下で良かったです。」
「・・・・・。」
「本当に感謝します。」
「エルリック、信用するな。」
「・・・・ぇ?」
「この軍の人間を信用してはいけない。」
「それは・・確かにそうですが、大佐や中尉や皆は・・」
「例外はない。」
「・・・大佐、俺は大佐を信じてます。」
「演じろ。だが、本当に信用はするな。」
「大佐・・・」
「これは上官命令だ。」
「俺は大佐を守ります。」
「・・・・・良い演技だ。」
「大佐っ!!!」
「今日は終わりだ。帰りたまえ。」
「・・・・・はい。」
「お先に失礼します。」
エルリック、お前は優し過ぎる。
人を、軍人を怨んでいるだろうに、簡単に軍人を信用し過ぎだ。
それで身を滅ぼすのは他でもないお前自身だ。
こんな世界で気を許してはいけない。
『許さない・・・』
『俺はあんたを・・・見つけ出す』
『殺してやる』
【 cry 】
「・・・佐・・・大佐・・・大佐っ!!!!!」
「・・んん・・・」
「大佐、大丈夫ですか?」
「・・エルリックか、」
「随分うなされてましたけど、悪い夢でも?」
「あぁ、まぁな。」
「仕事中に寝るからです。」
「すまない。」
「謝るなら中尉に、探してます。」
「分かった。」
「中尉は司令室です。俺は昼飯に行ってきます。何かあったら呼んで下さい。」
「あぁ、ゆっくり食べてくるといい。」
金色の髪を一つに結い上げ、軍服を綺麗に着こなした私の部下。
私のとても優秀な部下の一人。
金色の眼でいつも真っ直ぐに信じてついてきてくれる。
だが、私はそれが恐ろしい。
いつ、その眼が怨みに満ちるのかと・・・
毎日のように見る夢が、忘れるなと訴える。
忘れようと思ったことはない。
だが、心のどこかで忘れようとしている。
忘れたいと願っている。
・・・腐った心、腐った体。
足が重くなる。
ズシリ、ズシリと、毎日少しづつ。
だが、私は立ち止まるわけにはいかない。
この腐った体でもやるべきことがある。
やれることがある。
「中尉、呼んだかな?」
「何を呑気に、死にたいんですか?」
「・・・・・すまなかった。」
向けられた銃口が静かに下ろされる。
そのことにホッとする。
「顔色が優れないようですね。」
「・・・・死ぬかと思ったからな。」
「それは自業自得です。そうではなく、入ってきたときから顔色が悪いようですが・・・」
「・・・・・夢見がね。」
「またですか、」
「・・・・・慣れないものだ。」
「なぜ傍に置いておくのです。」
「私を殺す者が居るなら、彼がいいと思ってね。」
「本当は許されたいと願っているのではないですか?」
「・・・・・・厳しいね、君は。」
「私はあなたを守ります。」
「心強いな。」
「私はためらいなく撃ちます。」
「・・・・・・そうか。」
彼女は本当にためらいなく撃つだろう。
殺してでも私を敵から守るだろう。
それが同僚であっても。
エルリックに初めて会った時は、まだ彼が幼い頃だった。
私は彼の母親を殺した。
言い訳をするならば、それが私の任務だった。
何故殺さなければならないのか、理由などは聞かされなかった。
ただ『殺せ』と命じられた。
そんなことは日常茶飯事で、私は気にもとめていなかった。
倒れていく彼女の影から幼ないエルリックが姿を現した。
私はその小さい気配に気付かず、彼の目の前で母親を殺してしまったのだ。
理解できずに呆然と立ち尽くす彼を置いて去ろうとした。
だが、私がドアを閉める直前彼は私を真っ直ぐ見た。
『殺してやる。』
軍人として身につけた技が声の出ていない言葉を届かせた。
私はなんて愚かな人間だ。
心の片隅では確かに感じていた疑問。
だが、それは片隅に置いておかなければならない。
気づかないフリをしなければならない。
それが暗黙の了解。
私の覚悟が決まった時、
すでに私の両手は腐りきっていた。
エルリックは国家錬金術師となり、この軍に現れた。
母親を殺した軍人を探しに。
当時ホーエンハイムという性を名乗っていたエルリックに気付かず、若く優秀なエルリックを軍は歓迎した。
彼は私の名前も知らず、顔も忘れていた。
あの場を共にしていた中尉には反対されたが、私の部下に配属させた。
なんて美しいのだろうと思わずにはいられなかった。
彼は守らなければならない。
こんな体でもいくらかマシだ。
彼だけは、エルリックだけは・・・・・
それから3年が経つが、まだ気付かれてはいない。
軍には、私の知る限りあの件に関する資料は残されていない。
私が言わなければエルリックが知ることはないのかもしれない。
だが、私は言わない。
卑怯だろう。
そんなことは百も承知だ。
「大佐、俺はこれで失礼します。」
「その前に、資料室に付き合ってくれ。」
「イエッサー。」
中尉の視線が突き刺さる。
彼女はおそらく扉の向こうで待機するだろう。
私が殺されないように。
私は時々こうしてエルリックに調べる時間を与える。
自力で資料室で調べていた彼に私から声をかけた。
エルリックから何を調べているかを聞いたことはない。
だが、聞かずとも調べることは分かっている。
あの日、あのときの軍人の正体だ。
私はこの国の過去を知ることは良いことだと適当に理由をつけて、尉官では入れない資料室の閲覧を許した。
この資料室にあるものでさえ、都合の良いように書かれたものばかり。
だが、少しのズレもいつしか大きなズレになる。
見つけ出すかもしれない。
答えに気付くかもしれない。
目の前人物だと気付いてしまうかもしれない。
それでも私は、エルリックに調べる時間を与える。
彼が早いか――
私が早いか―――
「大佐、俺が何を調べてるか気になりませんか?」
「気にならないな。」
「何故、ですか?」
「さあね。」
「さあねって・・・」
「話したければ話せばいい、話したくないのなら話さなくていい。」
「・・・・いつか、大佐には全部話します。」
「そうか。」
「俺、大佐の部下で良かったです。」
「・・・・・。」
「本当に感謝します。」
「エルリック、信用するな。」
「・・・・ぇ?」
「この軍の人間を信用してはいけない。」
「それは・・確かにそうですが、大佐や中尉や皆は・・」
「例外はない。」
「・・・大佐、俺は大佐を信じてます。」
「演じろ。だが、本当に信用はするな。」
「大佐・・・」
「これは上官命令だ。」
「俺は大佐を守ります。」
「・・・・・良い演技だ。」
「大佐っ!!!」
「今日は終わりだ。帰りたまえ。」
「・・・・・はい。」
「お先に失礼します。」
エルリック、お前は優し過ぎる。
人を、軍人を怨んでいるだろうに、簡単に軍人を信用し過ぎだ。
それで身を滅ぼすのは他でもないお前自身だ。
こんな世界で気を許してはいけない。