Ecarlate
「…いや。で、じゃなくて。…オレが気になってるのは、伍長が留置所に放り込まれた頃からどっかで言われているっていう、…噂の方だよ」
「噂?」
「だからぁ、エカルラートが現れて伍長を攫うんじゃないかっていう…」
―――そうなのだ。
なぜか、不穏な空気が高まる中、ひとつの噂が囁かれるようになった、というのが、エドワードの琴線に引っかかってきたのだ。
上司に懸想され、袖にしたら冤罪の罠にはめられた女性。
まさしく十四年前、エカルラートが起こしてきた誘拐事件の条件に合致しそうな状況ではある。だが、およそ十四年も前のことを誰がなぜ言い出したのか…それがエドワードには気になったのだ。
誰が。何のために。
「そんなの俺が知るかよ」
しかし、…ブレダはあっさりと首を振り、肩をすくめてそう答えたのである。エドワードは思わずこけそうになった。
「なんだよ、それ!」
「だから、知らねぇもんは知らねぇって。そもそも司令部が違ったら誰がいて何してるかなんて、ほんとにわかんねぇんだぞ?まあ、士官学校の同期なんかが行ってる部署なんかだったら、たまに話聞くこともあるだろうが…」
わかんねぇもんはわかんねぇんだよ、と手を振りつつブレダはもう一度それを繰り返した。
そう言われてしまえば、エドワードも引き下がるしかなかった。