二次創作小説やBL小説が読める!投稿できる!二次小説投稿コミュニティ!

オリジナル小説 https://novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
二次創作小説投稿サイト「2.novelist.jp」

Ecarlate

INDEX|10ページ/18ページ|

次のページ前のページ
 

#cinq



 …軍らしいといえば軍らしい光景なのかもしれないが…。

「…何やってるの、中尉」
 無表情で何か…長机の上店を広げている女性に目を丸くしながら、エドワードは、呆然とたまたま近くにいたブレダ少尉に聞いた。すると、少尉答えて曰く。
「…あれをやると心が落ち着くんだそうだ」
「…。落ち着くのか…?」
「…動揺した時は基本に立ち返れ。…多分、そういうことなんじゃないか」
 ブレダの答えはやや婉曲的だった。気を使っているのだろうが、その由来が、中尉への敬意なのかそれとも我が身可愛さなのかは判然としない。
「…銃の…解体?」
 とりあえずエドワードは見たままを口にし、合っているかとブレダを見た。
 広げられているのは銃の部品に見えるので、多分間違いではない。ただ、量やパーツの大きさから考えると、短銃ではなさそうな気がする。たとえばライフルとかそういった銃であるように、エドワードには見えた。
 すると、ブレダは曖昧に頷きながら静かに答えた。
「解体して掃除してまた組み立てる。すごいぞ。職人技だ。いい時に来たな」
「……今度中尉に銃の実演販売でもしてもらえば?軍のパフォーマンスでさ…案外人が集まるかもよ」
 売ってどうするんだよ、とブレダは溜息をつきつつ、黙って目線で上座のひとつの机を示した。そこは空席で、机上には書類の山がいくつか。
「あー…そういうこと…」
 そこが誰の席だかわかってしまえば、エドワードもなんだか哀れみのこもった目を女性に向けてしまう。
「そういうことだ。…午前中、一度電話で席を外したきり、姿をくらました」
 ―――そこはロイの席であった。
 彼には執務室も用意されていたが、そこだけが彼の席というわけではないようで、きちんとこの大部屋(本当は何か違う名前があるはずだが、エドワードはあまり関心がないので「顔なじみの皆が居る大部屋」という風にしか認識していなかった)にも彼のための席が用意されていた。
 執務室は応接室をも兼ねているので、そういう理由もあるのかもしれないが、単にエライ人だからという単純な理由なのかもしれない。ロイの机が、そこにもあるのは。
 とにかくそこは一応ロイの机なわけだが、その上にはどう考えても未決済と思われる書類の山。そしてその主は午前中から逃亡中。ちなみに今は午後のおやつの時間だ。
「…何やってんだ、あのアホ大佐は…」
 はぁ、と疲れたように少年にまでこき下ろされ、…ブレダは困ったように苦笑した。
 彼は別にロイを阿呆とは思わないが、しようのない部分がある男だとは正しく認識していた。それが彼のすべてではないにしても、…困ったところがあるのは、まあ事実である。
「…つまり現実逃避ってわけ?」
 中尉を視界に捕らえたままのエドワードの呟きに、ブレダはやはり困った様子で頷く。
 ホークアイといえば銃、銃といえばホークアイ。
 東方司令部においては誰もが知っている常識である。だが、それにしても…。
「中尉って、…ほんとに銃のエキスパートなんだな…」
「ああ。まあ…」
 そこで言いづらそうに、ブレダは眉を顰めた。
「少尉?」
「ん? …まあ、中尉はな。射撃の申し子だから」
「…は?」
 エドワードも、彼女がいかに優れた狙撃手かは聞き及んでいる。だが、ブレダの表現は、そんな簡単なものではない。申し子とはまた、…恐れ入る。
「…それより、エド。大佐に用事だったのか?」
「え、あー…うん、まあ、そうといえばそうなんだけど…」
 そこえエドワードは、ブレダを伺うように、微妙な上目遣いで口を開いた。
「…少尉でもいいんだけど。…これのこと、教えてくれないかな」
 不思議そうな顔をしているブレダの前に新聞を広げながら、エドワードは小首を捻った。

 マチルダ・ローズ、元・中央指令部所属伍長。
 上司の度重なる嫌がらせをとうとう告発したが、逆に、上司により横領の罪を訴えられ、投獄されている。
 しかし関係者の話によれば、これは冤罪なのだという。
 …まずストーリーはこうである。
 ローズ伍長は、妙齢の美女であるという。エドワードは直接見たことはないし、新聞や雑誌というのはそういう部分には脚色を加えるものだから、まあ美人というのは括弧付けで書いておくくらいでいいのだろうな、と判断しているが、そもそもこの伍長が、上司であるさる軍閥の御子息の求婚を断ったことに事件は端を発しているのだといわれていた。
 どんなに規制しても人の口に戸は立てられない。
 まして、ゴシップなど特に。
 普通に考えれば、その上司の御子息の人となりは不明だが、まあ俗に言う玉の輿というやつだろう。だが、マチルダは断った。他に言い交わした人がいたからか、単純にその相手が好きではなかったか、もしくは仕事が恋人か…まあそのいずれかであろう。
 だが断ったローズ伍長はともかくとして、断られた方はいい恥さらしである。何しろ名門のお坊ちゃまだ。自分の想定と違う未来の出現に、大いに機嫌を損ねたに違いない。(推測の域を出ないが、それはきっとそうだろう、とエドワードも思った)
 そして、事件は起こった。
 ローズ伍長の主張によれば、彼女は、上司に業務上の重要な話があるから、と執務室に呼ばれたということになっている(上司はこれを否定している)。だが執務室には誰もおらず、おかしいな、と思ったのだそうだ。そこで出て行ってしまえば良かったのかも知れないが、どうやら彼女は細やかな女性だったようで、開かれていた窓が気になった。そのため、部屋を出る前に上司の机の後ろにある窓を閉めようとそこまで回った時、件の上司が執務室に戻ってきたのである。
 そこで彼は、上司の不在時に機密書類のある執務室に無断で立ち入り、あまつさえ机の上を漁ろうとした、彼女はテロリストのスパイに違いない―――と主張し、逮捕させてしまったのだ。
 お互いの主張を聞けば、ああ、これは嫉妬に狂ったこの男が彼女を罠にはめたんだな…と単純にそう思うところではあるが、ローズ伍長の上司というのは、軍閥の家計に連なるある少佐であるという。誰もが冤罪だとわかっているが、はっきりとそう言って、敵に回りたがる馬鹿も居ない。おまけに、この件には証拠がなかった。双方の主張が食い違っている時にどちらがより優遇されるか―――そんなものは、権力がある方に決まっている。
 かくしてローズ伍長は留置所に放り込まれたらしい。
 が、今度は、その処遇と、そこに至るまでの経緯、つまり伍長が上司を振ったという事実を知る他の軍人達の間から不満が広がった。
 そんなわけで単純に伍長を裁けば若手の軍人達の暴走を促すかもしれないということで、ローズ伍長の裁判は宙に浮いたままになっているのだそうだ。

「…よく調べたなあ、おまえ」
 メモを交えたエドワードの質問に、とりあえず一番にブレダが言ったことはそれだった。
「…ありがと」
 それには曖昧に笑い、肩をすくめてエドワードはさらりと返した。
 先日ファルマンと別れた後すぐに最新の新聞を何誌か買って、後は適当に人にあたって調べてみた。今、現在進行形で起こっていることなので、情報の収集は容易いことだった。
「で?」
作品名:Ecarlate 作家名:スサ