二次創作小説やBL小説が読める!投稿できる!二次小説投稿コミュニティ!

オリジナル小説 https://novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
二次創作小説投稿サイト「2.novelist.jp」

【腐向け】とある兄弟の長期休暇(前編)

INDEX|1ページ/5ページ|

次のページ
 
「兄ちゃん! にいちゃーん!」
 大声で呼びながら、ヴェネチアーノは帰宅する。家でのんびりしている兄を探し、あちこちの部屋のドアを開け続けた。
「ヴェー、どこに行ったんだろ……」
 日本の家で遊んでいる時、ふとした会話からバカンスの話になった。
 ドイツはいつもイタリアにバカンスに来てくれると自分が喜べば、日本も我が事のように微笑んでくれる。そんな中で聞かれたのは、「イタリア君は何処へバカンスに行くのですか?」という質問だった。
「うーん、基本は地中海近海かなぁ? エジプトもいいね。後、オーストリアも好きだよ!」
 ウィーンでのんびりっていいよねと笑い、以前バカンスの間元宗主の屋敷に泊めて貰った事を思い出す。ホテルのようにだらだら寛ぐ訳にはいかない厳しさもあったものの、親しい人と共に過ごすのは楽しかった。
 ああ、今年は何処へ行こうか。
 そう計画を立て始め、今年こそは兄と一緒に過ごせないかと考える。普段シチリアやナポリでのんびりとバカンスをしている兄だが、そこへ一緒に行こうとすれば盛大に拒否されるだろう。
 自分のテリトリーに踏み込まれるのを嫌がるのは、今まで共に暮らしていて気付いていること。それを避け、そして一緒に出かけられる場所は何処だろうか。
(兄ちゃんの好きそうな所で、俺が楽しめる場所かぁ……)
 兄の興味を引けて、自分も楽しめるのが一番。ヴェネチアーノはうんうん唸ると、急に一つの国が頭に浮かんだ。
「そうだ、 スペイン!!」
 兄やオーストリアと一緒に彼の屋敷へは行った事があっても、国を観光した覚えが無い。そして兄は同国で暮らしていたので詳しく、案内をして貰えば必然的に一緒に居られる。
「ヴェヴェーン!」
 我ながら素晴らしいアイディアだ。嬉しくなり日本に話せば、それはいい行き先ですねと褒められた。
「でも、ロマーノ君に断られたりしませんか?」
 一人の時間を大切にするタイプの彼は、あまり人と一緒に居ることを好まない。例外は彼の親分であるスペインのみ。それもどちらかといえば、彼が空気を読まず可愛い子分に纏わりついているだけのような気もする。
「う、うん……たぶん、面倒くさいって断られると思う」
 だが、行き先がスペインなら切り札があった。後で絶対怒られるだろうが、必ず一緒に来てくれるだろう。
 誰に聞かれる訳でも無いけれど、つい秘密を打ち明ける雰囲気で日本に耳打ちをする。その理由に口元を押さえて笑う姿を見て、ヴェネチアーノも楽しげに笑ったのだった。
「兄ちゃ~ん……」
 日本のお墨付きを貰った策を披露したい。そして一緒に遊びたい。中々見つからない姿に肩を落とせば、後頭部に衝撃を受けた。
「うっせーんだよ!」
「兄ちゃ~ん!」
 手にしているブランケットから、どうやら中庭でシエスタをしていたらしい。それにしては長いシエスタだと時計を横目に思いつつ、ヴェネチアーノはようやく会えた兄に抱きついた。
「なんなんだよ、お前は……」
 ぎゅうぎゅうと抱きつくのにも慣れているのか、ロマーノは呆れるだけで離そうとはしない。もう何を言っても離す事は出来ないと理解しているのかもしれないが。
 そんな兄に機嫌を良くし、抱きついたままお願いをする。
「兄ちゃん、兄ちゃん! 今年のバカンスは一緒に行こうよ~」
「イヤだ」
「行こうよ~、俺、今年はスペインに行こうと思うんだ」
「一人で行けよ」
「やだよー、俺スペインあんまり知らないもん。兄ちゃん案内してよー」
「面倒臭ぇ」
 何度食いついても即却下される。いつもなら譲歩してくれる筈の上目遣い+涙目のコンボでも駄目で、相当面倒臭いと思っているようだ。
 仕方なくヴェネチアーノは体を離すと、早速対ロマーノ最終兵器を出した。
「ヴェー……。じゃあ、スペイン兄ちゃんに案内して貰おうっと……」
 しょんぼりと言う台詞に、ロマーノの肩がビクリと震える。酷く戸惑っている空気を横目で確認し、ヴェネチアーノはポケットから携帯を取り出してスペインに電話をかけた。
「チャオ、スペイン兄ちゃん~」
『オーラ! イタちゃん、急にどうしたん?』
「あのね、俺今年のバカンスでスペインに行こうと思うんだ。でも良く知らないから、スペイン兄ちゃんが案内してくれないかなーって」
『おお、ええで~。ロマは? 一緒に来んの?』
 携帯から聞こえる声をわざと大きめに設定しておき、スペインの声をロマーノに聞かせる。自分の名が出たことに頬を染めて反応している兄に心の中で謝りつつ、先程の話をスペインにした。
「兄ちゃんイヤだって言うんだよ」
『ロマらしいなぁ。まあええわ、案内は俺に任せとき!』
「わーい! ありがとう、スペイン兄ちゃん!」
 わざと明るい声を出し喜ぶ。さっさと通話を終了すると、ヴェネチアーノは自室へ戻ることにした。部屋の扉を閉め、大きく息を吐く。同時に漏れたのは、愛する兄に対する謝罪だった。
「兄ちゃんごめんね~……」
 ロマーノがスペインに特別な好意を持っているのに気付いたのは、二人で独立して直ぐのこと。
 様子を見に来たスペインを見つめる瞳の色、優しい声。態度は粗暴なものの、必ず近くに立つ姿。彼が自分を可愛がる姿に苛立ちその場を去る背中は、嫉妬の感情をヴェネチアーノに伝えた。
 だからこその策。スペインと二人で会おうとすれば、きっと兄は嫉妬で一緒に来てくれる筈だ。兄の恋心を利用するのは申し訳ないが、どうしても一緒に居たい。
「俺だって、兄ちゃんが大好きなんだよ」
 スペインの愛情は確かに重いが、自分だって相当重い。そもそも兄の気持ちに気付かず振り回すような相手に、大切な家族を渡せないんだと拳を握る。
(今回であの二人に進展があればいいけれど)
 嫉妬されて兄に避けられるのは寂しい。かといってスペインに抗議する訳にもいかず、逆に兄とくっつくとスペインから微妙な視線が来るのだ。
 もういいから、早くくっついてくれ。そう何度言いかけたか分からない。面倒くさい二人の為にも、自分の為にも。ヴェネチアーノはロマーノが「自分も一緒にバカンスに行く」と言ってくれる事を願った。

「……おい、ヴェネチアーノ」
「なーに?」
 明日からバカンスだと浮かれつつ囲んだ夕食の席で、ロマーノが視線を逸らしながら真っ赤な顔で話しかけてきた。
「ば、バカンスだけど……」
 内心きた! とガッツポーズを取る。羞恥に耐えながら言葉を紡ごうとする兄に、ヴェネチアーノは心の中で大声援を送った。
「お前とスペインじゃあ心配だから、俺も行ってやるぞコノヤロー!」
「本当!? やったあー!」
 両手を上げて喜び、作戦成功を祝う。二人きりのバカンスでないのは残念だが、それでも初めての兄弟一緒。胸は喜びで染まり、ヴェネチアーノは思いっきり抱きついた。