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【腐向け】とある兄弟の長期休暇(前編)

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「チャオ~! スペイン兄ちゃ~ん」
 着替えを詰め込んだバッグを手に、スペインの屋敷で声を上げる。広い屋敷に声がこだまするが、主人の返答は無い。
「どうせ畑にでも行ってるんだろ。勝手に上がろうぜ」
 勝手知ったるという風に、ロマーノはどかどかと屋敷の中へ入っていく。彼の荷物は携帯と財布だけ。自分とは随分違う量だ。
 普段からよく遊びに来ているせいか、この屋敷にある兄の部屋は今も本人によってしっかりと使われている。だらだらと泊まることも多いせいか着替えも置くようになったようで、スペインの屋敷は兄の別宅のようになっていた。
 ロマーノによって部屋へ案内され、荷物を置いてリビングに戻る。勝手に淹れたコーヒーを飲みながら二人並んでソファでまったりしていると、バタバタという音と共に屋敷の主人が帰宅した。
「遅なってすまんなぁ、って……ロマーノや~ん。俺の事、恋しゅうなった?」
 リビングに入るなりいつもの調子で緩く謝ったものの、すぐに一人多いことに気付き顔を輝かせる。同行が決まったのが前日のことだったので、そういえば言っていなかったなとヴェネチアーノは今更気付いた。
 最も兄が急に増えた所で、オーストリア先生曰く子分馬鹿、ロマーノ馬鹿なスペインに断られるとは思えない。
「アホいえ、このやろう! 観光ついでに奢られに来てやったんだ、感謝しろ!」
 ……兄ちゃん、昨日と理由が変わってる。
 恋しいという言葉に過剰反応している兄をのほほんと見つめながら、思わず心の中でつっこんでしまう。
(兄ちゃん可愛いなぁ~)
 真っ赤な顔で罵倒してもまったく効果は無い。目の前のスペインの頬が緩み切っているのも気付かず、兄はひたすらに言い訳と罵倒を繰り返していた。
「兄ちゃんも、スペイン兄ちゃんも喧嘩しないでよ~」
 イチャつき過ぎだと言いたい気持ちを堪え、わあわあと言い合う二人を止める。さり気なくロマーノの腕を取ると、ヴェネチアーノは笑顔で片手を上げた。
「よーし、すぐに出発だ~!」


 あちこち観光するならと、スペインが車を出してくれることになった。彼らしい真っ赤な車が太陽に輝き、うきうきとした気持ちを引き立ててくれる。さあ乗ろうと兄を振り向けば、彼は引きつった顔をしていた。
「にーちゃん?」
「……いや、俺も後ろ乗るぞコノヤロー」
「えー、いつも通り助手席でええやん」
 スペインの言葉に小さく首を振り、ロマーノはさっさと後部座席へ入ってしまう。更にはしっかりとシートベルトの確認をしており、異様な空気だ。
(ま、いいか。隣同士~)
 少し残念そうな親分様の傍をすり抜け、ヴェネチアーノも後部座席へ入る。シートベルトを付け終えると、顔を前に向けたままのロマーノが手を握ってきた。
 少しひんやりした体温が伝わり、何故か彼が緊張しているのが分かる。嬉しいけどどうしたんだろうと首を傾げるが、その理由はすぐに分かった。
「あー、楽しかった! ……兄ちゃん、大丈夫?」
「な、何でお前は大丈夫なんだよこのやろー……」
 車から降りたロマーノは真っ青な顔で座り込む。
 まあちょっぴり荒い運転だったかなと苦笑しながら同意をし、酔った兄の為にすっきりとするようにソーダを買おうと辺りを見回す。スペインにロマーノを任せ離れると、店の前に見知った顔を発見した。
「ドイツだドイツー! スペイン兄ちゃんの家でもムキムキなんだねドイツー!」
「イタリア……いや、どこでも筋肉量はさほど変わらないと思うが……」
 両手をぶんぶんと振り、地図を睨んでいたドイツの傍に走り寄る。眉間に皺を寄せていた友人はこちらに気付くと、少しホッとしたような顔を見せた。
「よう、イタリア」
 その隣、影になるように立っていた男が片手を上げて挨拶をする。特徴的な眉毛の男に、思わず目を丸くした。
「イギリスも遊びに来たの? 珍しいね~」
 スペインとイギリスは今でも微妙に仲が良くない。そんな彼がここに来ている姿を見て、ヴェネチアーノは何だか嬉しくて笑ってしまった。
 皆が仲良くするのはいいことだ。
「スペイン観光に来たのは俺の為なんだからな! でもまあ、お前に会えて良かったぜ。ちょっと道を聞きたいんだが」
「ヴェー、ごめん。俺も詳しくないんだ。でもスペイン兄ちゃんと一緒だから安心して!」
 ぐっと親指を立てて胸を張る。ドイツにお前が威張るなと怒られたが、ヴェネチアーノの顔には笑顔しかなかった。
 忘れずソーダの缶を買い、ドイツとイギリスを携え兄達の元へ戻る。慰めるようにロマーノの頭を撫でていたスペインがこちらに気付き、ぶんぶんと手を振って迎えてくれた。
「おい、大丈夫かよ」
 兄の体調不良は変わらず、イギリスが心配して顔を覗きこむ。真っ青な顔色の理由を聞き、仕方ねーなと彼は自身のポケットを弄った。
「ほいっ」
「ヴォアッ?」
 取り出した小さな飾りの付いた杖を振る。すると何処からか煙が吹き出し、ロマーノの体を包んだ。
「ちょ、眉毛何すんねん!」
「まあ見てろって」
 これ位なら軽いもんだと、得意げな顔をするイギリスの前で煙が晴れる。そこに居たのは、顔色がすっかり戻ったロマーノだった。
「……あれ?」
「酔い、もう大丈夫かよ?」
「あ、ああ……ありがとう」
 ゆらりと立ち上がり、ロマーノは体をひねってあちこちを確認する。気分の悪さが解消されただけだと気付くと、驚きの余り素直にお礼を言った。
「何やロマが世話になったみたいやし、案内したるわ!」
 ロマーノをぎゅうぎゅうと抱き締めつつ、スペインが車に乗るよう指示する。顔を真っ赤にして逃げようともがく彼を助手席に押し込むと、笑顔で後部座席のドアを開けてくれた。
(あ、やられた~……)
 見事に兄を奪われた。流石は親分、染み付いた行動は素早くて止められない。まあドイツと一緒だしいいかと切り替え、ヴェネチアーノは後部座席に乗り込む。ドイツのムキムキを堪能しようと抱きつけば、困惑したような声が頭上からした。
「イタリア……その、南イタリアは車酔いしやすい体質なのか?」
「んー、何時もはそうでもないよ。たぶんスペイン兄ちゃんの運転だからじゃないかな」
「そ、そうか」
 二人のやりとりを横で聞き、イギリスの顔が引きつる。慌ててシートベルトを確認する姿に苦笑すれば、同じようにドイツもまた確認をしていた。
「ヴェー、二人共心配性だね」
 俺は平気だったよと、胸を張る。その頭をぽこんと殴り、ドイツは「お前の運転は問題がある」と注意した。
 急発進した車はまるでジェットコースターのようだ。窓から入る風が気持ちよく、ヴェネチアーノは楽しげに頭を揺らした。目の前ではまた青ざめた兄が、スペインに頬をつつかれて怒っている。ちゃんと前を見ろだの、スピードを落とせだの叫んでいるが、親分様は笑うだけで聞き入れなかった。
(歪んだ楽しみだよね~)