理不尽の解答
いや、これも聞かれたら、あんた散々公私共に積極活用してるくせにどの口が言うか、とでも呆れられるに違いない。
そして、いちいちジャーファルの反応を思い浮べてしまう自分の精神作用が向かうところは、どうしたってジャーファルでしかないのだ、と自覚する。
ああ、ちょっと不貞腐れたくなってきた。
「………俺にしたら、最近もっぱら子どもたちにしか向かないその笑顔の方が、よほど不公平だ」
ぱちぱち、とジャーファルが瞬きをした。
首を傾げて、考えるように右手が口元に上げられる。
しばしの間があって、
「拗ねていたんですか?」
もしかして、と再び覗きこんでくる顔はひどくきょとんとしている。
「ああ。拗ねていたな」
いや、今現在も進行形だ。
今もって「拗ねて」いるのだ。
特効薬は、症状の原因でもあるジャーファルの補給しかない。
手を伸ばす。
頭を覆う布ごと包んでぐいと引き寄せる。
丸くなった目が近づく。
鼻先の触れ合う位置に留めおいて、
「子どもたちにばかり、というのは不公平だろう」
「………シ、シン?」
「お前は、俺のものなのに」
愛しい笑顔ひとつもままならないなんて。
ジャーファルにとってこの世でもっとも愛しいはずの王に対して、そんな仕打ちは理不尽だろう?
「だからもっとその顔をよく見せておくれ」
できれば、他にない笑顔で、と囁きながら、両の手で頬を包む。
そっと撫でるように指の腹を滑らせる。
耳朶をやわやわと弄び、柔らかい感触をしばし楽しむ。
それから耳全体を手の平で覆い込む。
そのまま指を、髪の間に忍ばせるように潜り込ませた。
反動でさらに引き寄せられた顔が、びくりと震えて、
「……………、ふ、」
シンドバッドは破顔した。
熟れたように真っ赤になったのは耳だけではない。
愛しい顔が震えながら目を伏せて、しかし決して逃げてはいかない。
振り払われないのは、シンドバッドが王だからではない。
ジャーファル自身が、嫌ではないからだ。
この顔が何よりの証拠。
笑顔は、他人にも向けられるものかもしれない。
だが、この顔だけは、
こんな愛しい顔は、間違いなく自分ひとりだけのものだ。
「ジャーファル」
熱を込めて優しく名前を呼ぶ。
おずおずと上がった視線が、目元までを真っ赤にしてシンドバッドを見つめた。
「ジャーファル、」
首を僅かに傾けて重ねて呼べば、触れ合う寸前の唇が震えながら声を絞りだした。
「理不尽、なのは、あなたの方、です」
「理不尽?」
シンドバッドの吐息が触れるだけで、震える小さな身体が愛しい。
「私には、はじめから、あなただけなのに」
観念したように目を閉じたジャーファルに、もう愛しさしか込み上げない。
「これ以上、何を望むんですか」
それは、すべてシンドバッドに捧げてあるのだという熱烈な告白だ、まるで。
火の点いた胸の内を堪えるつもりもないシンドバッドは、勢いに任せてジャーファルを身体ごと引き寄せて、心ゆくまで愛しい政務官を堪能したのだった。
2012.1.5