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00まどか 見滝原幼年期の終わりに

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 杏子は眠りについてた。ワルプルギスの魔女達との戦いで、吹き飛ばされた杏子はその強烈な一撃を食らい、意識を失っていた。

 
 吹き飛ばされる直前、懸命に戦い続けるさやかやほむらたちの姿が見えた。


 すまない。混濁する意識が消えようとする瞬間、杏子はなぜかそう思った。


 さやかは魔女化する運命を受け入れながら、ほむらが提供したグリフシードで穢れをはらい、ぎりぎりの状態で戦い続けている。いつ魔女化してもおかしくないが、さやかは魔女化した際に敵の中枢に突入して暴れまくって果ててやると豪語していた。おそらくその言葉どおりになると、杏子は理解していた。


 そんな彼らを置き去りにして、意識を失うなどあってはならないことだ。杏子はほんのわずかな間ではあったが、意識を失った。





 杏子は闇の中を駆け続けていた。出口はない。ただ背後の光景から逃げようと必死で走っているに過ぎない。

 
 背後には杏子が殺してしまった両親と妹の遺体があった。


 直接杏子が殺したわけではない。だが父親の広める信仰をキュウべえとの契約で実現した。ただそれだけだった。


 だが、杏子の父は賢い人だったので、自分の話を信者が聞いているのではなく、ただ自分の周りに人が集まっているだけと気付いてしまった。

 
 そして夜な夜な魔力を使い続ける杏子の姿を見て杏の父は理解した。


 これは魔女の力によって達成された悪夢だと。


 その悪夢とも現実とも付かない状況から逃れられないことを知った杏子の父は酒におぼれ、まともな状態ではなくなり、杏子を除く家族を皆殺しにして自ら命を絶った。


 杏子は自分勝手な願いから家族を失った事実から逃れようとしていた。だが、逃げようとしても家族の命を間接的に奪った事実からは逃げることは出来ない。

 
 走り疲れた杏子の前に断崖が現れた。


 暗闇の中なのに、その断崖に底はない事を杏子は悟った。

 ここから飛び降りれば楽になれる、全てを終わらせることが出来る、杏子はそう思った。


 家に帰ってきた杏子が、ぶら下がった父親を見つけた時から杏子の中の時は止まったままだった。

 
 そしてこの断崖を飛び降りれば優しかった父達と仲良く暮らしたあのころに戻れる、杏子はそう思った。


 だが、杏子は断崖の向こうにある家族の元へ伸ばそうとした手を見てしまった。


 ひじから手首まで染まった、真っ赤な手を。そうだ、自分達と同じ魔法少女だった魔女達を殺してしまった罪、そんな罪を背負った自分が家族の元に行けるはずがない。


 


 自ら死ぬことすら許されない事実に杏子は絶叫した。

 

 戦闘は苛烈を極めていた。



 ワルプルギスの夜と呼ばれる魔女とは、巨大な闇そのものだった。しかし、そこから伸ばされる無限の数の触手は魔法少女達を捕らえようとしていた。


 その触手に捕まればどうなるか、さやかは巴マミの死に様を思い出して身震いした。


 だが、いずれはさやかも時間の問題で魔女化する。


 穢れを溜め込みすぎたさやかはほむらが提供したグリフシードで一時的に人間の姿を保っているに過ぎない。


 そうなると、ただでさえ不利な魔法少女達の勝機が益々失われる。そうなる前にワルプルギスの夜の球体の中に突入して、魔女化する際の爆発的な力をその球体の中で炸裂させる、それしか方法はなかった。


 だが、その球体から伸びる触手はさやかたちを近づけまいとうごめいていた。その様はイソギンチャクを思わせるものがあった。もっともその数もスピードもその比ではなかったが。


 一瞬の隙を衝かれたさやかの右腕を触手が貫いた。


 が、次の瞬間にはその右腕は斬り飛ばされていた。

 
 ほむらだ。ほむらが時間を止めて、さやかの右腕を触手ごと切り飛ばしていた。


 「私が痛み消しと再生が得意でなかったらどうするつもりだったのよ!」

 「それを期待しての行動よ、そうでなければこんな無茶はしないわ」

 
 触手との距離を取りながらさやかは右腕に魔力を込めた。右腕が猛スピードで再生していった。しかし、あまり気持ちの良いものではない。


 それに、魔力を消費するということは魔女化を促進することでもあった。
 
 
 後退して杏子の位置まで下がり、彼女の意識を取り戻したかったが、襲い掛かる敵の攻撃を裁くだけでさやかたちは精一杯だった。杏子が触手の魔の手が伸びない距離まで吹き飛ばされていたのは僥倖と言えた。だが、このままでは時間の問題で、さやかたちは敗北する。


 その厳然たる事実にさやかは心を曇らせた。彼女のソウルジェムがまた濁っていった…。再生が完了した右腕を見やったさやかは絶句した。さやかが見慣れた白い肌ではなく、銀の色をしていた。魔女化が体を犯し始めていた。だが、ここで絶望に浸るわけには行かなかった。

 
 見滝原にはさやかの愛する家族や上條くん、仁美、まどかたちがいるのだ。彼らのためにもまだ倒れるわけにはいかなかった。


 戦いの場に連れて来ず、家で待つようにさやかに言われたまどかはさやかたちの無事を祈り続けていた。

 
 まどかの家族も見滝原を覆う実体化した暗雲と、その暗雲の中心で戦い続けるさやかたちの姿をテレビで見続けていた。

 いや、見滝原の全ての住民がその光景を見届けていた。

 
 そして見滝原に住む、かつて魔女の口付けを受けた人々は思い出した。この暗雲の中にいる魔女達が自分達を自殺や殺人に導こうとしたことを。


 それは仁美も同じだった。その仁美を救ってくれたさやかという魔法少女の存在も仁美は思い出した。


 「上條くん」


 仁美は上條の手を握りながら呟いた。名前を呼ばれた上條はテレビから目を離して仁美の方に向き直った。


 「あなたに伝えなければいけないことがあるの」


 仁美の真剣な瞳を見ながらも、上條はテレビの向こう側で戦い続けるさやかのことで頭がいっぱいだった。 


 杏子は高みから戦いを見続けていた。武装を解いたいつものパーカー姿だった。ああ、私、死んだんだ。でも私、父さん達の待つ天国へいけるのかしら。


 そんな考えを一瞬浮かべた後、杏子は見滝原の街を見下ろしていることに気が付いた。


 廃墟と化した教会を一瞥した後、巨大な暗雲の中で時折光が漏れる光景を杏子は眺めていた。


 さやかたちが戦っている。そう思うと視界は暗雲の中に入り込んでいた。

 
 さやかは右腕を押さえながら後退している。その隙をほむらが盾でガードしている。だがあまりにも数が多すぎる触手の前ではほむらもさやかをかばいきれない。時折、ガードをかいくぐった触手がさやかたちの体を傷つける。

 
 こんな時に何も出来ないなんて。


 そう思った杏子の頭の中に声が響いた。


 「しっかりしなさい。魔法少女。」


 目の前にマスケット銃を携えた少女がいた。くるくるとしたきれいな髪をいじりながら少女は言った。

 
 「私は途中でこの戦いから降りる事になっちゃったけど、あなたはまだ生きている。見て、見滝原の街に生きる人々を」