二次創作小説やBL小説が読める!投稿できる!二次小説投稿コミュニティ!

オリジナル小説 https://novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
二次創作小説投稿サイト「2.novelist.jp」

00まどか 見滝原幼年期の終わりに

INDEX|2ページ/5ページ|

次のページ前のページ
 

 彼女が手を広げると、そこには見滝原で暮らす人々の姿が見えた。電車の中で携帯電話のテレビを見ながら、ホストらしい人がさやかを応援している。隣にいる人はさやかに文句を言っているようだけど、後輩らしいホストはその先輩をたしなめていた。

 
 以前さやかがCDを届けようとしていた上條の家の中に視点は移った。テレビを見ながら緑の髪の少女が泣きながら少年に訴えかけてる。何を言っているのかは聞こえないが、少年を説得しようとしていることは理解できた。


 余り景気が良さそうでない工場の中でテレビを見ている中年の男性がいた。彼もさやかたちを応援していた。その工場の中はいつでも仕事が出来そうなくらい、きれいに手入れがなされていた。
 


 金髪の少女は寂しげに呟いた。


 「私はもうこの町にはいないけど、あなたやまどかちゃんやほむらはこの町で今も生き続けている。そしてあなたの愛した父さんが教えを授けた人々たちも。望むと望まざるにかかわらず、あなたには彼らを守る責任がある。責任があるということは生きる理由があるということなのよ。あなたはただ理由もなく戦い続けた私みたいになってはだめよ。あなたは生きている、生きているということは自分を、世界を変えていける可能性なのだから」
 

 次第に金髪の少女の姿が薄れていった。


 「変わりなさい、変われなかった私の代わりに…」


 杏子の右手には父の形見のタイピンが握られていた。


 そのタイピンが光っている。ああ、私のソウルジェム、父さんと私の魂が光っているんだ。


 まどろみの中にあった杏子の意識はもう闇の中にはいなかった。光が全てを包んでいた。



 さやかは目の前の触手の攻撃が弱くなったように感じた。

 
 いや、目の前の触手の数は減っていない。だが、そう感じた。


 そして目もくらむような赤い一撃がその触手を切り裂いていった。


 「待たせたわね」


 さやかは振り向かずに応えた。


 「遅いわよ、杏子。待ちくたびれたわ!」


 万感の思いが篭った言葉だった。杏子の位置からは顔は見えなかったが、さやかは肩を小刻みに震わせていた


 「杏子、ワルプルギスの中心に向かうわよ。そこに飛び込んでケリをつける。あの中心部にいるであろう、アイツの真意を確かめるためにも!」


 何度も時間軸を超えてきたほむらが会話に割り込んできた。相変わらず空気が読めない女だが、その冷静さが杏子には頼もしく思えた。


 だがその作戦はさやかの完全な魔女化を意味していた。

 
 その作戦は生きている人を救いたい、命を大事にしたい、そう願った杏子の思いとは矛盾していた。


 躊躇する杏子を前にしてさやかは笑う。とても気持ちのよい笑みだった。

 
 触手を切り払い、さやかは叫んだ。


 「何を躊躇しているのよ、杏子!_魔法少女としての行き方を私に教えたのは、あんたのはずよ!_たとえ矛盾をはらんでも存在し続ける!_それこそが生きることだと!」

 
 魔法少女の力で今まで生き延びてきた杏子をさやかは否定していた。だが、その杏子たちの助けでさやかは今まで人間でいられた。その感謝の思いを不器用な言葉でさやかは杏子たちにぶつけた。

 
 「行け!_杏子、生きて未来を切り開け!」


 擬似魔女化開放!(トランザム)と叫び、さやかはその魔女化した右腕を無数の剣に変えて投擲した。さやかの体が赤く染まり、投擲された剣が、触手を切り裂きながら球体に突き刺さった。


 擬似魔女化開放は魔法少女の切り札だった。ソウルジェムの中にたまった穢れを一時的に開放して魔女の力を得る、だがそれは諸刃の剣でもあった。何故なら魔女の力を得るために一時的に身体の一部を魔女化することは、魔女の力に囚われるリスクがあったからだ。


 その魔女の力を一時的に解放することを擬似魔女力解放と名づけたのは巴マミだった。巴マミの残した魔法少女研究ノートには、擬似魔女化開放に「トランザム」とルビがふられていた。


 そのルビを見た瞬間、研究ノートを発見したまどかがなぜか吹き出したことをさやかは思い出した。この戦いを前にしたほむらが、「この黒歴史ノートだけど、せっかくだからこの呼称、使いましょう」とまんざらでもない顔で提案したとき、「ああ、マミさんって、ほむらと似たもの同士だったんだな」と思った。ちょっと幻滅。



 そして魔女化が避けられないさやかにとって、擬似魔女化開放は、もはや人間に戻ることはかなわない片道切符といえた。


 自らの命を燃やし尽くそうとするさやかの雄姿を歯を食いしばって眼に焼き付けながら、さやかが切り開いた突破口めがけて、杏子とほむらは駆け抜けていった。

 

 「正直、この戦いに勝機はないわ」



 ほむらが事実を何の感情も込めないまま呟いた。

 
 「でも、この状況は私のタイムリープの記録に存在していない。杏子とさやかが協力し、まどかが魔法少女にならなかった未来は。だから、希望はある!」



 別の未来でさやかに「諦めきった目をしている」と言われたときのほむらとは別人の目でほむらは叫んだ。


 じゃあ私の夢の中で、マスケット銃を携えた魔法少女が好きなアニメの台詞を丸々パクッてドヤ顔でお説教してくれた状況もなかったんじゃないの。


 杏子は口元に薄い笑みを浮かべた。


 「何がおかしいの」


 「別に」


 
 触手の攻撃を切り抜けて、ワルプルギスの球体の前に来た杏子はレッドランス、レッドボディ、父の形見のタイピンに込められた魔力を結集させて擬似魔女化(トランザム)を行おうとしていた。


 これに成功すれば、後はほむらに任せても倒れても構わない、その覚悟で力を解放しようとした刹那。


 突き刺さった触手を体にまとわり付かせ、さやかが猛スピードでこちらへと向かってきた。


 その場を離脱した杏子とほむらに向かってさやかが叫ぶ。


 「ならば、見滝原の市民の未来の水先案内人は、順番がちょっぴり違うけどこの美樹さやかが引き受けた!_これは死ではない!_私が愛した見滝原の人々が生き延びるための--」


 魔女の力をワルプルギスの球体表面に向けて炸裂させたさやかは、ソウルジェムの青い輝きで、ワルプルギスの黒い球体を青く染めるほどに包み込んだ。


 光が収まるとともに、ワルプルギスの球体に進入口が出来上がった。


 だがその光が収まったあとの光景はほむらたちの予想を超えるものだった。


 さやかが魔女にならずにそこにいた。いや、両の手が完全に魔女になり、無数の剣を引っさげている。そしていまだ収まることのないワルプルギスの夜の触手を完全に押さえ込んでいる。


 次第にさやかの足が鱗をまとっていく。だがほむらの記憶と違うのは、その鱗が人魚の足になるのではなく、鱗の鎧、すなわちスケールメイルの形をとり始めたことだった。


 魔女化を己の意思で押さえ込み、さやかはほむらたちの道を切り開くために戦い続けている。


 そんなさやかへの熱い思いが杏子たちの心に去来しながらも、杏子たちはその進入口へと思いを振り払いながら突入していった。