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00まどか 見滝原幼年期の終わりに

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 捨身とも言える彼女たちの姿にキュウべえはすっかり飲み込まれていた。ありえないことの連続だった。彼女たちは元々エゴが強い人間たちばかりのはずだった。そして彼女たちはキュウべえの狙い通りに絶望と希望の心位落差から出るエネルギーの供給を行ってくれた。


 だが彼女たちはそうしたエゴイズムとは、無縁だった。


 ほんのわずかな間で彼女たちはまるで別の人間に変わってしまっていた。


 「また父さんの受け売りだけど、父さんは我欲って厄介なんだって言っててよ。我欲同士がぶつかり合えば、世の中はその我欲同士で滅んでしまうって言ってた。もっともその我欲で父親や家族を滅ぼした私が言える柄じゃないんだけどね。だから、今度はその罪滅ぼしをしたいんだ。さやかを完全に救えなかった分も含めてね」


 「杏子、あなたは間違いなくさやかを救ったわ。たとえ魔女化がわずかに延びただけとはいえ、彼女の魂は救われた。だから彼女は完全に魔女に堕ちることなく今も私たちを支えてくれている」

 ほむらは叫んだ。

 「だから、私は彼女の思いに応えたい!_あの子の思いを、魂を受け継いで前に進めたい!」


 あたりを再び長い沈黙が支配した。だれもがお互いのことを思い合い、前へ進もうとしていた。


 彼女たちが救った工場主も、仁美も、上條も、町のみんなもみな、生きているのだ。


 その可能性を潰さないために、未来をつかむために、明日をつかむために。


 「いこうか…」


 キュウべえが重く口を開いた。


 「正直僕にもこんなことは初めてだ。うまくいけば君の意思を残したまま恒星間移動が可能になるかもしれない」


 初めてキュウべえが希望的観測を口にした。


 「でもさ」


 杏子が明るく口を開いた。



 「やってみなけりゃ、わからないでしょ?」



 「そうだね、君の言うとおりだ。そして僕もやってみるとしよう。魔法少女を、いや人間二人と僕の恒星間移動だ」

 うれしげに言うキュウべえに向かってほむらは言った

 
 「こちらの準備はいいわよ、キュウべえ。制御はあなたに任せます」


 「ああ、わかった。杏子、君も力を貸してくれ。ソウルジェムの維持分の魔力は僕が補おう。君たちの意思と協力はそれに見合うだけのものがある」

 
 他者に語りかけること以外、自らまったく動こうとしなかったキュウべえも変化していた。いや、成長というべきだろう。


 「ああ、わかったぜ」


 レッドランスを構えた杏子が不適に笑う。


 「これがラストループ!_もう、私は過去に戻ったりはしない!_過去のまどかが私に託してくれた未来!_それを私は守って明日につなげてみせる!」


 力場をといてワルプルギスの夜の闇の中に突入するほむらが決意の叫びを上げた。


 

  
  ワルプルギスの夜と魔法少女たちの戦いの様子を見ていたまどかは、そばにいる母に尋ねた。とても悲しそうに。



 「ねえ、お母さん。みんなが命を賭けて戦っているのに、私、何もしなくて良かったの?_ここでじっと見ているだけでよかったの?」


 涙を浮かべるまどかの頭をやさしく両手で包み込んで、まどかの母は応えた。


 「ううん、ただ見ているだけじゃだめなの。その目に彼女たちの姿を焼き付けるのよ。そして彼女たちが私たちの未来を作ってくれることを『信じて』私たちは生きていくのよ」


 「信じるって?」


 「信じるってことはね、疑わないこと。そして彼女たちを信じる自分も信じることよ。自分を信じなかったり大事にしない人は、人を信じることも愛することも出来ないもの」


 まどかが何かを言おうとしたとき、テレビのモニターの中のワルプルギスの夜の像が薄くなっていった。


 「お母さん、あれ見て!」


 ワルプルギスの夜の闇の中で戦い続けるさやかの姿は彼らには見えない。だが、ワルプルギスの夜が次第にその姿を小さくしていくことは理解できた。


 完全に闇が晴れ、結界が消えた時、そこに一人の少女が立ち尽くしていた。


 青い服と白いマントをなびかせた少女だった。


 しかし彼女の魔法少女のコスチュームもワルプルギスの夜と同じように薄く消えていき、さやかは見滝原中学の制服姿に戻っていった。


 さやかの手の中にはソウルジェムはなかった。


 魔女になるのではない。ソウルジェムはもう”ない”のだった。さやかは自分の胸に手を当ててみる。両の手は普通の中学生の少女のそれだった。足もきちんと二本ある。もっともすっかり靴も破けてみっともないはだしの状態だ。


 「置いてかれちゃったのか、私…。人魚姫になりそこなっちゃった」



 一人つぶやくさやかはいつまでもそこに立ち尽くしていた。空を見上げたさやかは彼らが自分を置いて空よりももっと高い別の世界に旅立ったことは理解していた。いや、わかったような気がした。理屈ではない、そう感じたのだ。


 「結局、あたしは何がしたかったんだろうね。杏子、ほむら、私一人生き残らせてどうするつもりだったの?」



 空を見上げるさやかのほおを熱いものが伝っていった。


 「さやかちゃーん!さやかちゃーん!」


 声がした。いつもの聞きなれた声だった。そうだ、私は生き残ったんだ。そしてまどかに私は伝えなければいけない。ほむらや杏子がどんな思いでこの世界を守ろうとしたかを。そして私は彼らから託された可能性を前に進めるために。


 「さやか、さやかー!」


 その声に振り向くとさやかが憧れつつも、自分ひとりが勝手に思い込んで可能性を捨ててしまった人が自分の名前を呼びながらこちらに走ってくる姿が見えた。

 しかも横にお邪魔虫もくっついている。彼らの後ろからもう見たくもないホストたちも走ってくる。

 「なかなか思い通りにはいかないわね」

 苦笑しながらさやかは走ってくる彼らをまぶしそうに見つめた。

 そうだ、生きてさえいれば何度でもチャンスはある。

 
 さやかは彼女を必要とする人たちの社会に帰るべく、彼らに向かって瓦礫の上を傷だらけになるのも構わず、はだしで走り出した。


 了