幼い愛でも愛してる【第２話・３話】
静かにドアを閉めて、こちらへ歩み寄る。そこに座ってとベッドを指差すと、彼女はまた静かに座った。
「何の用？」
恋人になっているのにこのセリフは無いわよと自嘲。
「私ね、怖かったの。告白しても拒絶されるから。だから言えなかった。でもルカ姉は言えたから、強いよね」
突然はじめた話。私は冷静についていって、言葉を選び口にした。
「私もよ。私は強くなんか無い。告白なんか出来たのはリンのおかげよ」
「リンちゃん？」
俯きがちだった彼女が、ようやく私のほうを見てくれた。それだけで気持ちが高ぶるのはよほど彼女を愛している証拠。
「リンがミクも私が好きだって教えてくれなかったら、私はきっと言えなかったもの」
「じゃあ、リンちゃんは私たちの恋のキューピットなんだね」
可愛らしいことをまた言って。
「そうね」
しばらくの沈黙。
嫌
嫌
何か言葉を…。
「ルカ姉が告白してくれたから…今度は私が言う番」
最初に沈黙を破ったのはミク。もしかしたら少女が何かの覚悟を決めるための沈黙だったかもしれない。
「…何を言うの？」
少し赤い顔。お風呂上りだからか、違うのかは定かじゃない。彼女の言葉を待つ。
「…して…くれる？」
「…何を」
意地悪っていつものミクなら言うわね。
卑怯
意地悪
ドS
いろんな罵声が思いつく。否定しない自分がいるのも事実だけど。
この静寂で、少女の決心が吐き出された。
「……大、好き」
待っていた言葉はたったの４文字。口にするとしても１秒たらずで言い終わる。それでも純情な少女には言葉を紡ぐために時間と決意が必要だった。私に言われるだけじゃ物足りないから、自分から言うことにしたのかしら。
「私も好きよ、ミク」
椅子から立ち上がって、私はミクの隣に座った。小さくベッドが軋む。
「言いたいことは、それだけ？」
「え？…うん…。私が、言いたかっただけ、だから」
気にしないで、そう言った少女が嫌だった。その先を私に伝えて欲しかった。まだ先が、あるでしょ？ミク。その真っ赤に染まった顔が証拠。その言葉だけじゃない。
「……他にないの？言うこととか、お願いとか」
しかし彼女は口ごもって私から視線を逸らすように俯く。その行動のおかげで耳まで真っ赤なのに気が付く。
「……頼んで、いいの？」
顔を上げずに少女は私にしか聞こえないようなか細い声で言う。私は出来るだけミクの願いを叶えたいから、お願いとか頼みごととかは可能な限り承諾するつもりだ。だからその質問は妥当じゃない。
「いいわよ。私に出来ることなら」
「…………………」
「？」
ミクが何かを言ったことはわかる。けれど何を言ったのかは聞き取れなかった。
「何を言ったのか聞こえなかったわ。ごめん、もう１度言ってくれる？」
「キスして」
さっきとは比べ物にならない大きさで言葉を発した少女。
私の思考回路は意外な頼み事でほんの一瞬ではあるがフリーズした。喜ばしいことであり、私は承諾した。
両手を少女の肩に置いて、確認の言葉をかける。本当にいいの、と。彼女はただ首を縦に振るだけで声を出さない。
顔を近づけても逃げようとしない。吐息がお互いの肌をくすぐる距離まで接近しても、それは変わらない。完全なる肯定とみなして唇に私のそれを触れさせる。
触れた唇は柔らかく、少しだけ乾いていた。
唇を離せば、少女は笑っていた。照れているのが半分、嬉しいのが半分だといい。
「ありがとう…ルカ姉」
「いいわよ別に。いずれ私からやっていたから」
じゃあ、私の勝ちだね
そうね。でも次は私よ
私が勝つもん
まだ少し顔が赤い少女は、紛れもない私の恋人。
青緑の長い髪にツインテール。
おしとやかで恥ずかしがり。
笑顔が可愛い、私が唯一愛した人。
「ミク」
「なあに？」
笑顔のままの少女に今告げる言葉はただ一つ。
「…愛してる」
笑っていて
私はきっと
貴女の笑顔に
一目惚れしたから
ずっと笑顔でいて、ミク。
作品名：幼い愛でも愛してる【第２話・３話】 作家名：くろはね