はじまりののぞみ
次の瞬間、はじかれたように走り出した彼女の手には一振りのつるぎ。
足を重く縫いとめていたぬかるみは白砂利へ変わり、少女をひきとめるものは何も無い。
景色はほんの一瞬前までの、あの雨の世界のものと全く違う。川原だった。肌寒い空気が少女の呼気を白くする。
戻ってきたのだ。
されど、悠長に迷っている暇は既に無い。少女は駆けたその先に、失ったばかりの懐かしい姿があるのを見て口角をわずかに上げた。
(――戦うことが出来る!)
信じられるだけのなにかがあればいい。
確かなものがなにもないからこそ、神子としての自分を信用できないからこそ、彼女は只人として剣をふるうことを選ぶのだ。
選び、望んだが故に。選び、望んだがままに。
少女が振り下ろした剣は、雨に凍えた手にも確かな感触を伝え。――なお、あやまたずに死霊を打ち滅ぼした。