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continuous phase

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innocence・音也



音也はヘッドホンを静かに外す。
そして一つ溜息。
視線を落として、又一つ溜息。

(やっぱり、トキヤは凄いや…)

「完成形」を耳にして、心の振るえが留まらない。

こんなにも叙情的に歌うんだ、と改めてトキヤの実力を認識した。
同時に、ちらりと不安がよぎってしまう。
これを超える歌に出来るのか?と。
正解を一つ見せられてしまうと、それをなぞる事はないにしても、やはり「正解」の存在の大きさを強く意識してしまう。
それではいけない、と首を横に振って否定する。

気を取り直して、歌詞に目を落とす。

(それにしても…)

これは誰が書いたものなのだろう、と思った。
まるで「誰か」を見て書いたような。
とても身近に思う風景が目に浮かぶ、そんな気がするのだ。

ベッドに体を投げ出して、歌詞の書かれた用紙を眺める。
文字の向こうには、トキヤの歌う姿が見える。
顔に用紙を落として、深く溜息をついた。
瞳を閉じても、瞼の裏の景色が消えてくれない。
体を小さくして硬くして、自分の世界に入ろうと音也は努力するが、悉くトキヤの歌がそれを赦してくれない。

「ああああっ!もう!!」

音也は飛び起きる。

(何やってんだ?俺?)

考えても仕方がない。
トキヤはトキヤだ。
自分は自分。

「俺にしか出来ない”歌”を世界中に響かせるって決めジャン」

机の近くにあるギターケースに手を伸ばす。
床に落ちてしまっている楽譜を拾い上げ弾き出す。

「俺は君の曲を、俺の”声”で君に届けるよ」

歌詞の世界の人間は恋をしている。
ただ、どちらの姿も見えない。
ならば、

「俺が七海、君を想うよ」

トキヤの歌声を、彼が構築した「世界」を振り払うように。

作品名:continuous phase 作家名:くぼくろ