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【腐向け】とある兄弟の長期休暇(後編)

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行きたい!


「おーい、君たちー!!」
 通りを突き抜けるような大声に振り向くと、そこには見知らぬ男を引きずるアメリカが居た。にこやかな笑顔で手を振っているが、軽々と成人男性を引きずる姿はまさに異様。思わずヴェネチアーノが一歩下がると、追いついたロマーノが驚いた声を上げた。
「アメリカ、何してんだよお前」
「ハロー! いや、ここじゃオーラ! だっけ?」
「どっちでもいいさ、チャオ」
 やけに親しげな口調で話す二人に、スペインが目をぱちくりとさせる。どういうことだと視線が問い、それに頬を染めながら恥ずかしそうに兄は答えた。
「なんつーの? め、メル友……達?」
「たまには一緒に遊ぶんだぞ!」
 まさかの交友関係が発覚。二人の話に、そういえばとヴェネチアーノは思い出した。最近よく兄のメール着信音が鳴っていると思っていたが、相手がスペインだけではなくもう一人居たからだったのかと納得する。
「へー、そうなん……」
「それよりもお前、そのオッサン誰だよ」
 鈍い反応のスペインに気付かず、ロマーノはアメリカが連れている意識の無い男を指差した。そこそこの距離を引きずられたようで、ズボンが若干下がってきているのが哀愁を呼ぶ。
 指摘ににこにこと笑いながら、アメリカは辺りを見回した。
「ああ、そうだ。スペイン、この辺にパトカーは居ないかい?このひったくりを預けたいんだけど」
 どうやら目の前で起こったひったくりの犯人を捕まえたらしい。他国でもヒーロー気質は凄いなとヴェネチアーノが感心していると、アメリカの携帯が着信を告げた。
 男を掴んでいた手を放し、アメリカがポケットをまさぐる。その隙を突いて気絶したふりをしていた犯人が飛び起き、逃げようとロマーノの方向へ向かってきた。
「うわっ!」
 どうやらかなりアメリカにやられたようで、必死の形相の男が恐ろしい。ぶつかる寸前ロマーノが目をぎゅっと瞑ると、急に体が引き寄せられた。
「ここは通行止めやで」
 耳元で響く声は慣れ親しんだそれ。目の前で響く音は、鈍い殴打音。驚きでロマーノが固まっている隙に、アメリカが地面に転がった犯人を押さえた。
 どうやらスペインが兄を抱き締めて守りつつ、突進する犯人を殴って止めたらしい。普段ののんびり具合からは予想出来ない素早さに、ヴェネチアーノは開いた口が塞がらなかった。
「ごめんね、ロマーノ。大丈夫かい?」
「あ、ああ」
「ちゃんと押さえとけや。まあ、ロマには俺がおるから大丈夫やけどな!」
 これ見よがしにぎゅうぎゅうと抱き締めながら、スペインがアメリカを注意する。相変わらずの過保護に苦笑を浮かべるが、腕の中の子分様はいつもと違う反応だった。
(あれ、やっぱり何かおかしい)
 普段なら「子供扱いすんなー!」とか、羞恥を誤魔化す為に怒って頭突きの一つでもする筈。なのに現在の兄は、スペインの腕の中で真っ赤になりながら俯いているだけだった。
「もっ……放せ、アホスペイン」
 暫く抱き締められたままいたロマーノが、力ない腕で胸を押す。妙にしおらしい姿に心配したスペインが顔を覗くが、顔も視線も逸らされてしまっていた。
(……もしかして)
 ヴェネチアーノの頭に、先程の店内のやりとりが浮かぶ。
「スペイン兄ちゃん、とりあえず警察呼ぼうよ」
 また犯人が暴れたら面倒だ。アメリカと共にしぶしぶと移動する姿を見送り、ヴェネチアーノはロマーノの隣にそっと寄って囁いた。
「意識しちゃった?」
「!」
 瞬間兄の顔が首まで染まる。普段怒鳴りながら暴れる彼は、意識すると体が固まり大人しくなるタイプらしい。
「兄ちゃん可愛いっ!」
「ヴァッファンクーロ! お前らのせいだからな!」
 何だよ夫婦って、と涙ぐみながら怒られてもまったく怖くない。思わず抱きついても引き剥がされず、兄の混乱っぷりが良く伝わった。
「スペインの野郎も一緒にからかうし……」
 馬鹿バカと口にするものの、顔は決して嫌がっていない。
 どうやら今までバカンス気分だったのに急に恋愛モードにされ、意識し過ぎてどうしたらいいのか分からないようだ。
 まるで恋する乙女のような姿に笑みが零れ、ヴェネチアーノは内緒話のように囁いた。
「俺はスペイン兄ちゃん脈ありに見えるけどな~」