二次創作小説やBL小説が読める!投稿できる!二次小説投稿コミュニティ!

オリジナル小説 https://novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
二次創作小説投稿サイト「2.novelist.jp」

【かいねこ】海鳴り

INDEX|1ページ/28ページ|

次のページ
 
「海鳴り」


昔々のことじゃった。

この地は、昔から漁が盛んでのう。近隣の村だけでなく都からも商人が来て、それはそれは賑やかじゃった。
だがの、ある時海に大蛇が住み着き、村人達は恐ろしくて、漁に出ることができなくなってしもうた。

このままでは生活が出来ないと、村人達は大蛇に生け贄を捧げることにしたんじゃ。

村の若い娘が生け贄に選ばれて、海にせり出した洞窟に連れて行かれた。村人達が娘を残して立ち去り、後は大蛇を待つばかりとなった時、旅の若者が現れて、「自分が大蛇を退治してみせる」と言いおった。
村人達は驚いた。もし大蛇が怒って村を襲ってきたらどうするのかと、若者を止めた。だが、若者は聞かずに洞窟に向かい、現れた大蛇を一撃で海に沈めてしまったのじゃよ。

生け贄の娘を連れて若者が戻ってきても、まだ大蛇が生きておるのではないかと村人は恐れたが、翌朝になっても、海は静かなもんじゃった。
これは本当に大蛇を退治したのだと村人は喜び、若者は娘を妻にして、村に住み着くこととなったんじゃ。

娘は若者によく尽くしておったが、この男が無類の酒好きでのう、村人達に招かれては、大蛇を退治した時の様子を肴に、毎晩飲み歩いておった。

ある夜、男がいつものように酔っぱらい、海岸沿いを歩いていた時のことじゃ。自分の妻が、人目を避けるような態度で、洞窟へと入っていくのを見たんじゃよ。
さては間男でも出来たかと男は怒り、後について洞窟へ入って行くと、娘は大蛇に姿を変え、海水で体を洗い始めたんじゃ。

自分の女房が、退治したはずの大蛇だと知った男は肝をつぶし、すっかり酔いも醒めて、慌てて家へと走っていった。

あいつは、俺に復讐するつもりだ。

男は返り討ちにしてやると、仕舞い込んでいた刀を取り出したんじゃ。抜いてみれば、刀には刃こぼれどころか曇り一つない。その時、男は、囲炉裏に飯の支度がしてあることに気づいたんじゃ。
思い起こせば、男がどんなに遅く帰ってこようと、娘は嫌な顔一つせずに出迎えておった。いつも温かい飯を食わせ、寝床もきちんと整えてある。
自分を討った刀さえ、常に手入れしておったんじゃ。
男は自分の身勝手さに気づき、涙を流した。
そして、女房が戻る前にこっそり家を出て、しばらく草むらに身を潜めておった。
娘が家に戻ってきたのを見て、酔っぱらった振りをしながらいつものように帰宅し、その日は早々に床に入ってしもうた。

翌日、いつものように家を出た男は、洞窟に先回りして娘が来るのを待った。
娘が人目を避けながらやってきて、大蛇に姿を変えたところで男は姿を現した。驚く大蛇に、男は家に帰ろう、これからはずっと一緒にいると言った。だが、大蛇は、知られてしまっては共にいられないと悲しげに告げ、娘の姿となって海に身を投げてしまう。男は慌てて娘の体を引き上げたが、時すでに遅し。娘は一言「幸せでした」と言い残し、息絶えてしまったんじゃ。

男は泣いた。泣いて泣いて泣き続け、その泣き声は村まで響くほどじゃった。
幾日も泣き続けた男は、とうとう死んでしまったが、男の泣き声は、いつまでも洞窟に響き渡ったそうじゃ。


今でも、海が荒れる時は、男の泣き声が聞こえてくるのじゃよ。


昔々のお話じゃ。


作品名:【かいねこ】海鳴り 作家名:シャオ