【かいねこ】海鳴り
「では、海を見に行こう」
俺の言葉に、いろはは驚いたようにこちらを見上げる。
「海だけではない。外の世界を共に見に行こう」
そう言うと、いろはも微笑んで、
「そうだな。お前と共に、外の世界が見たい」
手を伸ばして肩に触れると、いろはは僅かに身じろぎした後、大人しく身を寄せてきた。
細い体に腕を回したところで、足音が聞こえる。
慌てて離れると、メイコの声が響いた。
「見つけたわよ!二人して、こんなところに隠れて」
「すみません。人混みに酔ってしまいました」
いろはがしおらしく答えると、メイコは手を振って、
「大変だと思うけど、もう少し辛抱して。伏木様の屋敷で、酒席が設けられるの。酔っぱらいの相手は大変なんだから、あんたも来なさい」
後半は、俺に向けて言われる。
随分扱いが違うものだと苦笑しながら、「分かった」と答え、横で大人しくしているいろはを抱き寄せた。
「それと、俺は、いろはを妻に迎えることにしたから」
「はあ?」
「なっ!!」
メイコは呆れ顔でこちらを見て、いろははじたばたと暴れる。
「ばっ、馬鹿!何を言い出すんだ!」
取り繕う余裕もないのか、しおらしさを捨てて慌てるいろは。
「あんたが、そんなに手が早いとは知らなかったわ。大瀬様の影響?」
「一月、共に暮らしたからな」
「・・・・・・もう酔ってんの?」
俺が笑うと、メイコはやれやれと首を振った。
「何でもいいから、早くしなさい。ルカ達だけじゃ、大変なんだから」
「分かってる」
メイコが先に立って歩きだし、俺は真っ赤になっているいろはの手を握る。
「これからは、ずっと一緒だ」
そう言って笑いかけると、いろはは、ばしんと俺の肩を叩いた。
終わり