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【かいねこ】海鳴り

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人のいない裏に回り、ぼんやりと待つ。
来るかどうかは分からないが、何となく待っていれば会えるような気がした。

「カイト」

しばらくして、後ろから声を掛けられる。
振り向けば、やはりいろはだった。初めて会った時と同じ、白い着物を着ている。
いろはは、黙って俺の横に立つと、

「私達は、夢でも見ていたのかな」

と言った。

「お前が覚えていなかったら、夢だと思ったろうな」

俺の言葉に、いろはは頷き、

「祭りは一月も先の話で、誰も生贄のことなど口にしない。皆の表情は明るいし、龍神子様も感じが違っていた。何もかもが、あの時と違う」
「いろはにも、分からぬ事があるのだな」
「当たり前だ。私は、昨日作られたばかりだぞ」

俺は、龍神子様にお会いした時のことを思い返す。

「龍神子様のお顔は、拝見したか?」
「ああ。先程な」
「髪は白く、目は赤かったか?まるで、人ならざる者のような」
「そんな訳ないだろう。お前は、龍神子様を何だと思っているのだ」

呆れた様子のいろはに、俺はあの時の様子を話した。

「俺が会ったのは、伝承にある大蛇ではないかと思う。自分の封を解く為だと言っていたが、身を投げた後、魂は龍神子様の体に封じられていたのではないだろうか」
「何の為に?」
「いろはにも、分からぬ事があるのだな」

いろはは、むっとした顔をしつつ、

「分かることもある。あのミズチは、大蛇を退治した男の成れの果てであろう。神殺しの罰として異形に変えられたか」
「いや、そうではないだろう。海に住む大蛇を求め、人であることを自ら捨てたのだ。生贄の姿に妻を重ね、大蛇の生まれ変わりを捜したのではないだろうか」
「大蛇は、龍神子様の中に封じられているのにか」
「ミズチには分からなかったのだろう。龍神子様に封じられた大蛇もまた、手を出すことが出来ない。出来たのは、己の封印を解く者が出るよう、働きかける程度だ」

いろはは、納得のいかない様子で頭を振り、

「・・・・・・何にしても、随分回りくどいことをしたものだ。わざわざ禁を設けるから、多くの者が犠牲になった」
「俺には、何となく分かる気がする。おそらく、神と人が交わることは、禁忌なのだ。その禁を犯した為に、大蛇は封じられたのだろう」
「それが、どう関係してくるのだ」
「俺と大蛇は、同じだということだ」
「良く分からないな」

再び、いろはは頭を降る。

「いろはにも、分からぬことがあるのだな」
「何だ、いちいち突っかかる男だな」
「散々馬鹿にされたからな。仕返ししているのだ」
「なっ!あ、あれは」

いろはは真っ赤になると、顔を背け、

「・・・・・・わ、悪かったと、思っている」

その様子に、愛しさがこみ上げてきた。
いろはは気を取り直したように、

「皆に聞いてみたのだが、あの伝承自体がなくなってしまったようだ。この地に大蛇が現れたことなどなく、祭りも、豊漁を祈願する平和なものに変わっていた」
「ならば、もう生贄を捧げることはないのだな」
「そうだな」


誰も傷つくことなく、誰も苦しむことのない、皆が心待ちにする行事になったのか。



作品名:【かいねこ】海鳴り 作家名:シャオ