3月17日へ
米は炒め終わっており、サフランのつけ汁やスープストックを加え、調味料とパプリカの色も加えられ、炊く段階に入っていた。蓋をしたパエリアパンの中で食材たちが息づく。
「お前は、世界を愛しているのだろう。1ミクロにも満たないから、計り知れないほどの大きなものまで、お前は何も捨てたくないのだろう。こんなにも純粋で清廉で、優しい。何を考えてるのか知らんが、大丈夫だ」
ポツリと口にしたドイツにイタリアは何て返したらいいか解らず、ポカンと見ていた。パエリアが完成していた。
きたる3月17日。時計の針はどんどん進み、イタリアは17日をつげる音を恐々、待っていた。
今年もきっとたくさんの賛辞をもらうだろう。そして遠い昔のあの頃の記憶を呼び、この日を呪うのだろう。
否、違う。今年は、違う。イタリア自身も感謝するのだ。そしてあの記憶に微笑むのだ。
きっと、出来る。最愛のひとが居るのだから。
タマネギが泣けないのなら俺が代わりに、明かりが消えてしまうのなら俺が代わりに、鏡が一人では笑えないのなら俺が一緒に、―――――・・・君が居ないのなら、俺が君をつくる。心に。
(俺は、この日を迎えるんだ)