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体温

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 セルゲイの言う通り、数分の場所に衣服を売る店があった。紳士服と婦人服、若者のものも揃えられており、至れり尽くせりだ。
 夜の闇をショーウインドーの光が照らし、幻想的な色を醸し出している。店に入れば暖房が効いており、暖かい。丁度入り口近くに手袋が飾られており、セルゲイは立ち止まって放つ。
「私はここで待っている。手袋を選んで来なさい」
「はい」
 ソーマは一礼し、歩調を速めて手袋売り場に寄り、選び出した。
 しかし、彼女が見ているのはどう考えても男性用だ。軍用で有り触れていた皮製のシックな色のものを探し出してしまっている。
「ピーリス……」
 セルゲイは歩み寄り、女性用に目を向けた。
「君はこちらだ」
「え」
 ソーマは言われるままに女性用のものを見る。
 革のものもあるが、それよりも鮮やかで可愛らしいデザインのものが大半を占めていた。
「…………………………」
 なかでも指の繋がったものはソーマの理解を超えていた。こんなのをはめて何をするつもりなのか。疑問で頭が埋め尽くされ、思わず手に取っていた。
「ほう。暖かそうで良いじゃないか」
「大佐。これはハンデ用なのですか」
「違う。そういうデザインなのだ」
「で、では」
 手袋につけられた、丸い綿の飾りをつまむ。飾りの概念が彼女には無く、意味を探ろうとしてしまう。
「これは何なのですか」
「飾りだ」
「なぜついているのですか」
「可愛らしい……からだろう」
「はあ」
 咳払いをするセルゲイ。可愛らしい、などいつ口にした以来だったか。気恥ずかしさが込み上げる。
 その横で手袋をはめてみるソーマ。指がまとめて温かい布が包み込んでくれて暖かい。機能性は失うが、防寒能力は高い気がした。
「それにするのか」
「……え……あ……はい」
 小さく頷く。一度手にとって試着してみれば、不思議と愛着が湧いて戻せなくなった。


 手袋だけを購入して店を出て、前でソーマは別れを告げる。
「大佐。今日は有難うございました」
 相当嬉しかったのか、ソーマの頬は上気していた。
「ピーリス。今夜は冷える。早く帰って、身体を温めなさい」
「はっ。大佐もお体をお大事に」
 二人は別の方向を歩み、それぞれの家へ帰っていった。
 家に着くまでソーマは何度も袋の上から手袋の感触を確かめる。
 持つ手は悴み、中身の物ははめて使うものなのに、心が躍って自然と暖かくなっていく。
 明かりの消えたショーウインドーを通り過ぎる彼女の横顔は、柔らかな微笑みに満ちていた。
作品名:体温 作家名:ただスラ