吾輩は猫である
俺も普段からもうちっとマメになった方がいいのかね。思うだけで、行動に移すのは、まず無理なんだろうが。
「お土産とかね、そんなものはどうでもいいの。先生が私のことをずっと気に掛けてくれてたって分かっただけで、すごく嬉しかったんだ」
「にゃぉぉ」
(日野……)
「ん……? ヒロさん、どうかした?」
俺が立ち上がると、日野は不思議そうな顔をして覗き込んだ。
「みゃぁ……」
小さく鳴いて、間近に迫った彼女の頬に顔を擦り寄せると、頬をぺろりと舐める。
「ふふっ……くすぐったいよ」
日野は身体を震わせて笑いながらも、俺を抱き寄せてさらに顔を寄せる。
俺も猫の本能に従って、ここぞとばかりに舐め返してやった。
ケダモノ万歳!
これぐらいしたって罰は当たらないだろう。何せ、とばっちりは充分に受けているんだ。
「……名前のせいかな。ヒロさんと一緒にいると、先生と一緒にいるみたいで、すごく落ち着くの……あ、でも先生が目の前にいたら、どきどきしちゃうから、やっぱり違うかな」
そりゃそうさ。
今だって俺は、こんなに近くでお前さんを見守っているんだからな(……ということにしておいてくれ)
「ヒロさん、大好き……」
日野は俺を抱き締めたまま部屋の電気を消して、布団に入った。
柔らかい彼女の温もりを感じながら、俺もまぶたを閉じる。
猫が夢を見るのかは分からないが、もし見ることができるのなら、きっと良い夢になるに違いない。
――それはファータの魔法が解けるまで、つかの間の珠玉の時間……。
吾輩は猫である。名前は「ヒロ」
……もういっそ、このまま猫でいようか。