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【ハルコミ新刊サンプル】Get forward

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 ゴトゴトという音に合わせて自らが揺れる感覚に意識が浮上してきた。眠っていた、のだろうか。ともかくもグラハムは顔に当たる光を感じて目を開けた。
 見慣れない風景が目に入ってくる。相変わらずゴトゴトという音は続いていた。長方形の室内に向かい合わせのボックス席、天井には小さな黄色の電燈が並んでいる。
(トレインか――しかし、これは)
 見慣れたトレインの内部とは少し違う……どちらかというと何かの映像や写真などで見たことがあるような旧時代の、レトロな作りの物だった。
 向かい側の席には男が一人座って本を読んでいる。それが誰かは一目で分かった。ゆるやかなウェーブを描く栗色の髪。俯いていて見えないが、その瞳が美しいターコイズ・ブルーなのを知っている。いつも黒いグローブで覆われているその下には、長くしなやかな指が隠されていることも。
「ニール」
 その名を呼ぶ。彼の名を舌に乗せることが好きだった。彼が名前を教えてくれた時に、傍らにいることを許されたような気持ちになった。その時の思いは今も胸にはっきりと残っている。
 ニールはグラハムの声に気付いて顔を上げた。「グラハム」と彼の低めの落ち着いた声が名を呼び返す。その声が好きだ。その声に名を呼ばれることが、好きだ。普段は穏やかな声が、時折激情に揺れることも知っている。
「起きたのか」
 ここは? と訊きかけた声は言葉にならず、ニールの顔を凝視していた。ああ、とニールがグラハムの視線に気付くと困ったように微笑って自らの右目へと手を当てた。正確には、右目を覆う黒い眼帯を。
「ちょっとヘマやっちまってな。だけどもう痛みもねえし、何も問題ねえんだ」
 軽い口調でニールがヘラリと笑う。けれどグラハムはその眼帯をじっと睨むように見つめた。
 問題ないということがあるだろうか。だって、右目はニールの効き目で、そして――
(そして?)
 何か大事なことを忘れているような気がして、グラハムは眉を潜めた。パズルのピースが足りていないような感覚。
 その表情をどう捉えたのか、ニールが宥めるように「だから大丈夫なんだって」と繰り返した。
「必要な、ことだったんだ」
 今度はグラハムに言い聞かせるように少し強い口調で。
「分かった」
 グラハムは違和感を消し去れぬまま、けれど飲まれるように頷いた。
「それで、ここは?」
「――俺も気付いたらここにいたんだけどさ。ちょっと面白いことになってるぜ」
 そうしてニールは自分が今まで読んでいた本をグラハムの方へ見せると、何を思ったか突然読み上げ始めた。