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ベルゼブブ優一の幸せ

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「アクタベさんの欲しがっていた情報が得られて良かったです。ベルゼブブさんのお陰です」
佐隈りん子はにっこり笑って言った。
冬なのでコートを羽織っているが、その下には白いドレスを着ている。髪は結いあげ、顔にはきっちり化粧をしている。いつもよりも華やかな印象である。
ベルゼブブ優一は人間界にいるときのペンギンのような姿ではなく、魔界にいるときの本来の姿に近い人間に見える姿だ。
資産家の主催する紳士淑女のつどうクリスマスパーティーに参加し、まだパーティーは終わっていないのだが帰ることにして、パーティ会場のホテルを出たばかりである。
ベルゼブブと佐隈がクリスマスパーティーに参加したのは、芥辺に指示されたからだ。
このクリスマスパーティーの出席者のひとりが最近グリモアを手に入れたらしいという噂を聞き、真偽を確かめるためにベルゼブブと佐隈をパーティーに潜入させたのだった。
佐隈がさっき言ったとおり、ベルゼブブの活躍があって、芥辺が求めていた情報を得ることができた。
グリモアを入手したのは女性で、容姿端麗で貴族のような雰囲気を漂わせたベルゼブブは難なく彼女に近づき、ふたりきりで話すようになった。そして、彼女が手に入れたグリモアについて聞き出した。
だから、佐隈がベルゼブブのお陰だと言うのは当然のこと。
ベルゼブブは誇らしげに、少し胸を張った。
そんなベルゼブブに向かって、佐隈は笑顔のまま告げる。
「じゃあ、仕事は終わりましたので、これで」
きっぱりとした口調だった。
「は?」
ベルゼブブは眉根をわずかに寄せた。
戸惑っていた。
しかし、佐隈はさっさと踵を返した。
ベルゼブブに背を向けて、道を歩いていく。
「さくまさん、待ってください」
そうベルゼブブは呼びかけたが、佐隈は足を止めなかった。
自分は完全に無視されてしまっている。
なんだろう、この状況は。
よくわからない。
だが、このままここに留まっているわけにはいかない。
ベルゼブブは佐隈を追いかけた。
たいして離れていなかったので、すぐに佐隈の横に並んだ。
すると、佐隈は進む先を見たまま、口を開いた。
「私は事務所にはもどらずに家に帰ります。でも、ベルゼブブさんは事務所に帰ってください」
堅い声。
その表情も硬い。
どうやら機嫌が悪いらしい。
なぜ、不機嫌……!?
ベルゼブブには心あたりがなかった。
だから、なにか佐隈の機嫌が悪くなるようなことがなかったか、振り返ってみる。
仕事はうまくいった。パーティーの参加者に疑われることもなかった。
もっと記憶をさかのぼってみる。
パーティーに行くまえから佐隈が不機嫌だったということはないだろうか。
いや、それはない。
着飾ってパーティーに参加することにドキドキしていたようだが、そのせいで機嫌が悪くなった様子はなかった。
だとしたら、やはり、パーティーに参加していたあいだになにかあったのだろう。
ベルゼブブは考える。
しばらくして、あ、と思った。
そういえば、グリモアを入手した女性とふたりきりで話をしたあと、ベルゼブブが佐隈のもとにもどると、それまでに佐隈はパーティー会場にあったシャンパンやワインを何杯も飲んだようだった。
「やっと、あなたの不機嫌の理由がわかりました」
ベルゼブブはため息をつく。
「本当にあなたは酒グセが悪いですね」
「違います」
即座に佐隈が否定する。
「そういうことじゃ、ありません」
その声はさっきより堅く、重い。
不機嫌というよりも怒っている様子である。
「とにかく、ベルゼブブさんはさっさと事務所に帰ってください」
佐隈はベルゼブブのほうを見ないまま突き放すように告げると、歩く足を速めた。
ベルゼブブはムッとする。
なぜ自分は佐隈にこんな感じの悪い態度を取られなければならないのか。
自分はなにも悪いことはしていない。失敗はしていない。それどころか、自分がいたからこそ、グリモアの情報を聞き出すことができたのだ。
腹がたった。
こんなクソ女、もう知るものか!
そう胸のうちで吐き捨てた。
作品名:ベルゼブブ優一の幸せ 作家名:hujio