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サイケデリックドリームス

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「帝人君、俺達もう別れよう」

ああ、ついにその時が来たのだと知った。
呆然と目の前の、やたらと綺麗に笑って見せる青年の姿を見上げながら、それでも頭の中では思った以上に冷静にこの現実を受け止める事が出来たらしい。

(だって、臨也さんだから…)

いつかこの瞬間が来るのだと、僕は覚悟を決めていた。
いつだって優しさを湛えた、それでいて残酷な笑みで僕を見つめる彼は僕ではなく、僕の背後にある【人間】という種を愛していた。

そう、僕が恋心を抱いてしまった人はいつもいつも突拍子も無く行動を起こす人だった。
彼の中では独自の持論が展開されていて、その行動も「人を愛している」という、ただそれだけで説明されてしまうらしい。
彼の人間愛については僕自身も散々聞かされていて最初はそんな臨也さんに興味を持ったのが始まり。
なのに気付けばいつの間にか彼のペースに嵌ってしまった自分が居て。
しかし、それを心地良いとさえ、感じてしまう。
興味が淡い恋心に変化するのに、そんなに時間は掛からなかった。

勿論、最初は僕もその恋をひた隠しにしようと躍起になった。
だって相手は臨也さんだ、「俺が愛しているのは人間で、君個人じゃあ無いんだよ」なんてバッサリ振られてしまうのは目に見えていたし、それなのにわざわざ抱えてしまったこの想いをどうこうする気など、全くと言っていい程無かったのだ。
それなのに何処をどうして間違ったのか、僕と臨也さんは恋人同士という関係に収まってしまった。
正確に言えば、それも彼の人間観察の一種で。

『帝人君ってさ、俺の事好きなんでしょ』

そう言ってそんな僕が面白いからと、臨也さんは僕にじゃあ付き合おうかなんて提案してきたのだ。
だからこの関係は臨也さんが僕に飽きたら即終了、始まると同時に、既に終わりが見えていた関係だった。
だから、

(……覚悟してた、ハズなんだけどな)

彼の放った一言は、やはり僕にとっては重い重い一撃で、頭は冷静でも、身体が言う事を聞いてくれないのだ。

「聞こえなかったかな、もう恋人ごっこはお終いにしようって言ってるんだけど」

硬直した僕の目の前でひらひらと手を振りながら、悪びれた様子も無く臨也さんはそう告げた。
いや、元々そういうニュアンスを匂わせたままの関係だったから僕はどうこう言える立場じゃない。
それでも、それでも彼と一緒に居た時間が積み重なって、僕の心をずしんと重くさせるのだ。

(だって、臨也さんが本当に恋人同士みたいに接するから…)

彼とのごっこ遊びは、臨也さんがもしかしたら僕の事を好きになってくれたんじゃないかと錯覚させるくらいに優しく、暖かい時間だった。
少し、ほんの少しだけ、期待しなかったと言えば嘘になる。
でも、臨也さんはそんな僕の小さな心の動きまで楽しむように言葉巧みに翻弄していたに過ぎないのだ。

「もうさ、君の反応も大体見ちゃったし飽きたんだよねー。帝人君ってば俺の事本っ当に大好き!って顔するし、流石にちょっと重いって言うか」

「も、もう言わなくていいです!…大丈夫です、最初から、分かってましたし」

彼の口からすらすらと流れ出る否定の言葉をようやく遮った僕の声は、情けなくも震えてしまう。

……みっともない。

そう思いながらも僕自身にはどうする事も出来なかった。

「あ、そう?帝人君は物分かりがが良くて助かるよ」

「……」

悔しさと悲しさと寂しさと。
一言で纏めてしまうには複雑な感情が綯い交ぜになって涙腺に押し寄せる。
それでも泣きたくはなかったから精一杯我慢したのに、臨也さんはそんな僕の顔を見て、

「アハハ、変な顔」

そう、嗤っていたのだった。