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サイケデリックドリームス

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何だかずっと、長い夢を見ていたような気がする。
暖かくて、優しくて、包み込むような夢。
だけどその内容が思い出せなくて、一生懸命に思い出そうとすればするほど胸が苦しくなった。

(…夢…、本当に、夢だった…?)

なんだろう、何か、どこかで違和感が拭えない。
何が夢で、何が現実なのか。
僕はそれをちゃんと見極めなければならなかったはずだ。

(………そうだ、起きなきゃ)

いつまでも夢の中には居られない。
その事に気が付いた瞬間に、なんだかぱぁっと視界が開けたような気になった。

「…君、…帝人君…!」

(…サイケ、さん?)

 あぁ、自分を呼ぶ優しい声。

「帝人君、起きて!ねぇ!」

「…サイケ…さ……?」

それはいつも通りの目覚めのはずだった。
毎日サイケさんの声で目を覚ましていたから、その声音だって勿論知っている。
でも、何かが、…声が、違う。

「…あぁ、良かった…起きたんだね帝人君…」

ふいにぎゅうっと抱き締められて、何が何だか分からなくて混乱した僕はそのまま抵抗する事さえ忘れてしまっていた。
だって、だって、今目の前に居る人が纏っているのは、黒。
この色は、臨也さんの色。

「な、な…っ!?」

どうして、どうして彼が今僕を抱き締めているのだろう、いやそれ以前にどうして僕のアパートに…そしてサイケさんは…?
突如に沢山の疑問に襲われた僕は大慌てでその腕の中で暴れるけれど、逃げる事は叶わなかった。
そしてその腕がサイケさんのそれと酷似していて、余計に僕を混乱させていた。

(だって…臨也さんがこんな抱き締め方…するはずが無い…)

彼は冷たかった。
表情では笑っていても、いつもどこか冷たくて、だから、

「…ど、して…サイケさんは…? 何で、臨也さんが…?」

戸惑う僕の声は、彼に別れの言葉を告げられた時のようにみっともなく震えてしまっていた。

「あぁ、あいつサイケって言うんだ…」

臨也さんは噛み締めるようにその名前を呼んで、一度だけ深呼吸をする。
また何か言われるのだろうかとびくりと身体を竦めた僕を見て、彼は何故か苦々しく笑っていた。

「やっと気付いたよ。やっと辿り着いた。……これが、本物の愛しいって感情なんだろうなぁ…」

「臨也、さん?」

「…サイケはさ、君を大切にしてくれた?」

僕の顔を覗き込んで訊ねてくる臨也さんの目が、サイケさんのそれと重なった。
同じ顔ではあったものの雰囲気の違う彼らはあまり似ていなかったけれど、なのに今の臨也さんの視線はサイケさんのそれを彷彿とさせて。
違う、違う、彼はもう僕なんて…と思いながらばくばくと激しくなる鼓動を止める事など出来なかった。

「サイケはね、本当は俺だったんだってさ。俺のトチ狂った恋心。……本当、どうして俺はそうなるまで気付かなかったのやら」

「サイケ…さんは…」

「…俺の中に戻ったよ。彼は俺に気付かれなかった俺自身だから、俺が気付いてしまえば後は収束されてしまうからね。…それで、ようやく俺自身もはっきり分かった訳だ」

未だに混乱したままの頭では彼の言いたい事をきちんと理解するまでには至らなかったけれど、サイケさんが居なくなってしまった事だけは理解出来た。
それと同時に、今の臨也さんがサイケさんであって、また臨也さんであるのだという事も、漠然とだが把握出来た。
でも、それは、まさか…

「ごめん、色々酷い事言った」

「臨也さん…」

「ああしないと自分が自分じゃなくなるようで、怖かったんだ。だから余計に君を傷付けるような言葉を選んだ。…まぁ、今となってはただの言い訳なんだけどさ」

今までの臨也さんからは想像出来ないくらいに優しい言葉、暖かい声音。
これもまた彼の一種の遊びなのだろうかとも思ったけれど、その視線がやっぱりくすぐったくなるくらいに優しくて、疑えない。

「君は何を今更と思うかもしれない。俺じゃなくて、サイケを返せと思うのかもしれない。…でも、それはもう出来ないんだ…」

「っ、」

「最初から高望みはしない。ただ、もう一度だけ俺にチャンスをくれ。今度はあいつみたいに…いや、それ以上に君を想うから」

夢を、見ているのではないかと思った。
彼の口から聞けるとは露ほども思っていなかったその言葉が耳に届いた瞬間、僕の目尻からはぽろりと滴が零れ落ちていた。
臨也さんはそれを繰り返し繰り返し舐め取って、そのくすぐったさに身に覚えがあるから本当にサイケさんも『そこ』に居るのだと、心で感じる事が出来たのだ。

「……なんだか、夢みたいです」

「夢じゃ、無いよ。…後で色々君に弁解しておきたい事は多々あるんだけどね、取り敢えずその前に…」

「?」

「すき、です」

「…!」

たった一言、その言葉だけで僕の胸と顔は一気に熱を持つ。
あぁ、これがきっと僕がずっと欲しかったものだったのだろう。
なんだかその言葉がじんわりと僕の中に沁みていって、ようやく僕の欠けていた何かが埋まっていくような気がした。

「………ありがとう、ございます」

僕に救いの手を伸ばしてくれたサイケさんへの思いも込めて、僕は精一杯の言葉を呟いた。




END