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サイケデリックドリームス

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 失恋の虚しさをきっかけに始まった奇妙な同居生活は、意外にもすんなりと僕の日常生活に馴染んでいった。

「はい帝人君鞄だよー、今日も勉強頑張ってね」

「ありがとうございますサイケさん」

「いいのいいの、その代わり早く帰ってきて俺と遊んでね!」

「分かりました、なるべく早く帰りますね」

こうやって朝学校に行く前にサイケさんに見送られる事もいつの間にか習慣になってしまうくらいには、彼と一緒に日々を過ごしていた。
勿論その日常の隅々にあの人の、臨也さんの顔がちらつく事もある。
今、彼はどうしているのか。
しかしあの日から臨也さんとは一度も会っていないし、つまりは彼の方はすっかり僕に飽きてしまったのだろう。
その事実が胸をきゅうっと締め付ける事だってある。
それでも笑っていられるのは、そんな苦しみを吹き飛ばすくらいにサイケさんが明るく接してくれるからだ。

「はい帝人君、行ってきますのちゅー」

「え、えぇっ…いつも言ってますけど流石にそれは恥ずかしいですって!」

「いいじゃん俺帝人君大好きなんだよ? あ、口じゃなくてもいいから。せめてほっぺ、ねぇねぇお願い!」

そうやってぱしんと目の前で手を合わせ拝むように強請ってくるサイケさんを見ると何となく邪険には出来なくなってしまう。
彼の体格も臨也さんと同じだったからサイケさんは僕よりも大きい。
そんな人が子供のように僕に甘えてくる姿がちょっと嬉しくて、ついつい絆されてしまうのが困りモノだ。

「……じゃぁ、ほっぺにですよ」

「やったー!」

はしゃぐサイケさんは早速僕の肩をがしりと掴んで、頬に優しく唇を落としてくる。
しかも一度じゃなく、何度も。
ちゅ、ちゅ、と可愛らしく音を立てながら降ってくるキスの雨はなかなか止みそうも無くて、慌てて制止に入った。

「ちょ、わっ、サイケさん…サイケさんってば、やりすぎです…っ!」

「ふふふ、帝人君ってば顔真っ赤。かーわーいーいー!」

「…もう、勘弁してくださいよ」

サイケさんはスキンシップが激しかった。
それはもう、僕が羞恥で溶けてしまうんじゃないかってくらいに、甘く、優しく触れてくる。
赤くなった顔を隠すように口元を手で押さえながら、ちらりと彼を見れば、なんだかとっても満足そうに笑顔を浮かべていて余計に照れ臭かった。

「もう行きますからね!」

「はーい、いってらっしゃい」

何だかもう、この朝のやり取りはくすぐったくて仕方が無い。
それでも悪くないなぁなんて思ってしまうのは確かにそこに僕は幸せを見出していたからで。

(…でも、たまに臨也さんが【僕】を愛してくれてるみたいに錯覚してしまうけど…)

それが酷く自分勝手な感情だという事は分かっている。
けれどサイケさんは僕に対して何も言ってこないから、ついつい甘えを加速させてしまうのだ。
僕は、……そういう人間だ。



そんなぬるま湯のような居心地の良い生活。
でも、一つだけ。
たった一つだけ、サイケさんとの生活には問題点があった。

(やば、まだ朝なのに結構眠いなぁ…。睡眠時間はしっかり取ってるハズなんだけど)

たまにぐらりと揺れる視界、それは特に体調が悪い訳でも、眩暈の類でもない。

 ―――睡魔。

今日も教室に到着して、自分の席に着いた途端襲ってくるそれと戦わなくてはならなかった。
これはサイケさんとの生活が始まると同時に起きるようになった不思議な現象。
この異常な眠気は何なのか、サイケさんに聞いてみても彼は答えてはくれない。

(…と言うか『俺もよくは分からない』って言ってたからなぁ、はぐらかされてるのかもしれないけどさ)

それでもまぁ生活に困る程しょっちゅうという訳でもないし、たまの波さえ越えればスッキリと冴えるのだから、そこまで気にする必要は無いのだろうか。

(あぁ…でも授業中に眠くなるのはツラいなぁ…)

ごとんと机に頭を預けるとうっかりそのまま眠ってしまいそうになる。

「帝人君、大丈夫ですか…?」

「園原さん、…あ、おはよう」

「おはようございます」

そんな僕に優しく降ってきたのは園原さんの声。
心配そうなその声に慌てて頭を起こし、大丈夫だよとへらりと笑って見せた。

「最近眠そうにしている事が多いので…寝不足でしょうか…」

「あぁいや、そういうんじゃないんだ。…僕にも分からないんだけど、でも病気とかじゃないから安心して」

「なら良いんですけど…」

園原さんの気遣いがひしひしと伝わってくるような眼差しが少し嬉しかった。
臨也さんに別れを告げられたその日、向けられた冷めた眼差しは未だに忘れられない。
だからそういう小さな暖かさが僕にはとても嬉しかったのだ。
それでも睡魔の事で彼女に心配を掛ける訳にはいかないから、こんな時もあるよなんて言って僕も笑う。
そんな朝の時間はすぐに過ぎていってしまって始業のチャイムが鳴り響いたけれど、結局僕は最初の授業を睡眠学習という形で受けるハメになってしまったのであった。


それから午後にかけての体調は完璧。
特に睡魔に襲われることも無く過ごした僕は、サイケさんに言われた通りに真っ直ぐ帰宅するのも日課の一つになりかけている。

「ただい」

「お帰りなさい帝人君!」

「……ま、って…ずっと玄関で待ってたんですか!?」

アパートの古びたドアを開けると玄関にはちょこんと座っていたサイケさんの姿。
つい驚いてしまった僕は思わず後退りをしてしまった。

「えへへ、君を驚かせようと思って。大成功だね」

「もー、ビックリするじゃないですか……」

「だって帝人君が可愛いのが悪い」

そう言ってサイケさんはまだ靴も脱いでいない僕の肩に頭を押し当て、ぐりぐりと擦り付けてくる。
ぱさりと揺れる髪がくすぐったくて、ぽんぽんと彼の背中を叩いて解放を促した。

「遊ぶのは着替えてからですよ、制服皺になっちゃいます」

「はーい」

サイケさんとの触れ合いは、そう、なんとなくペットを飼っているような気分になった。
何と言うか、大型犬…?
彼のじゃれ付き方はそれを彷彿とさせるから、僕もついつい飼い主のような意識が生まれてしまう。
サイケさんを邪険に扱えないのはそのせいもあるのだろうか、なんて事を考えながら制服を脱ぐ。

―――その時だった。

一瞬、ほんの一瞬だけ視界が真っ暗になって、突然ぐらりと身体が斜めに傾いてしまう。

「帝人君……!」

(あ、倒れる)

そう他人事のように思いながらも傾いていく視界。
次に来る衝撃を覚悟したけれど、それは床に倒れ込む痛みではなく、ぽすんと柔らかい何かに包み込まれる感覚。

「帝人君っ、帝人君ってば…!」

サイケさんの声に僕の意識も引き戻されて、ようやく今僕は彼の胸に倒れ込んだのだという事に気付く。

「はは……すみません、ちょっといきなり眠くなってしまって…」

「大丈夫? 無理しなくていいんだよ、眠い時は寝たらいい」

「で、…も…」

サイケさんは渋る僕を抱えながら畳に座って僕を横たえる。
優しく頭を撫でていく手が、余計に睡魔を誘っていた。

「いいの、また倒れちゃったら心配じゃないか。…ちゃんと俺、傍に居るからさ」