スコッチの見せる夢
大海原が広がる大西洋。
波も穏やかで晴天の空に、黒煙と共に大きな砲弾の音と、勇ましい男達の戦をする声が木霊する。
幾重もの船が船同士隣接し、船員も剣を持って双方の船を行き来し、雄たけびと共に剣を振るう。
海独特の匂いの中に、煙硝の匂いとむせ返るほどの血の匂い。
敵味方関係なく入り混じる船内に、鋭い目つきをした男達が傷を負い、自分の血なのか相手の血なのかわからない血飛沫を浴び、何処か楽しそうに相手と対峙している。
海に投げ出される者、船内の床に倒れこむ者はいるが、怪我をしている者達ばかりで、不思議なくらい死者は出ていない。
そんな男達の中、船首で太陽の光を浴びて、きらきらと輝く男が二人。
「年貢の納め時やで、アーサー｣
ハルバードを担ぎ、アントーニョは嬉しそうに笑う。
「はっ、その言葉そっくりそのまま返してやるぜ、トーニョ。」
クレイモアを同じように担ぎ、アーサーも嬉しそうに笑ったその刹那、二人の顔が真顔になり、自分の得物を振り下ろす。
鈍い金属音が当たり一面に鳴り響くと、今まで闘っていた男達が一斉に船首を見る。
「ちっ、んな馬鹿でけぇ斧振り回してんじゃねぇよ、くそったれ！」
ギリギリと刃先を合わせ、不敵に笑うアーサー。
それに軽く舌打ちすると、負けじとばかりにアントーニョはアーサーを押し返す。
「くそったれはお互い様やろ。
クレイモア片手でぶん回せるやなんて、ギルちゃんとお前だけやで！」
それを聞いてふとアーサーは笑うと、アントーニョの斧を押し返し、後ろを確認することなく飛び退く。
支えを失った斧はそのまま振り下ろされ、甲板を傷つけた。
「お前だって、これ位振り回せるだろ。
そんな馬鹿でけぇ斧振り回せるんだからよ。」
ニヨニヨとアーサーは笑うと、そのままアントーニョの懐に入り込み切りかかるが、それをハルバードを振り上げ阻止された。
そのままアントーニョの脇をすり抜けると、アントーニョは振り上げたハルバードを振り向きざまに振り下ろし、それをギリギリの所で腰に付いていたレイビアを抜きいてアーサーは攻撃を防ぐ。
それに舌打ちしたアントーニョは、真横からハルバードを振り、アーサーをめがけ振り払うと、ひらりとアーサーは飛び、ハルバードを足場に、また反対側に舞い戻る。
「相変わらずやなぁ、クソ眉毛。」
ハルバードを担ぎなおし、ニヤリと笑うアントーニョに、アーサーもつられて笑う。
「うるせぇ、眉毛って言うなっ！」
再度二人が戦闘モードに入りかけた時、遠方から砲丸の音が聞こえてきた。
二人の戦いを見取れていた船員は慌しく動き出す。
「なんや、もう時間切れかいな。」
残念そうに呟くアントーニョにアーサーは笑う。
「あれだけドンパチやってたんだ、来るのは時間の問題だとは思ってたけどな。」
クレイモアを甲板に刺し、レイピアを鞘に戻しながらアーサーがそう言うと、アントーニョも笑った。
「せやなぁ。
けど、来るのが遅かったんとちゃう？
のんびり屋はどこの奴やろ？」
ハルバードを降ろし、目を細めて遠方を見るが、どこの船だか見えない。
それにアーサーは笑いつつ、腰に付いていた双眼鏡で砲丸の音がするほうを見る。
「んー、あのジャックはフランシスんとこのだなぁ。
仕方ねぇ、今日は引き上げだ。」
双眼鏡をしまいながら、ふとアントーニョの方を見ると、詰まんなさそうな顔をしいてた。
「野郎共、今日はもう引き上げだ。
海に浮かんでる奴らも引き上げて帰るぞ！」
甲板に向かい号令をかけると、敵味方なくそれに従い、更に船員は忙しく動く。
「ああ、こっちの船におる怪我人はそのままにしといてええで。
後で送り届けるしなぁ。
その代わり、お前んとこにいる怪我人の世話頼むわ。」
ハルバードを担ぎ上げ、そう言って船員の下に向かおうとするアントーニョに、アーサーは手を取って止め、自分のほうに引き寄せると、そのまま頬に口付ける。
「また後でな、トーニョ。」
不敵に笑ったアーサーもクレイモアを引き抜き、担ぎ上げると、そのまま自分の船へと戻る。
突然の事に困惑しながら、どうにか船員の下に戻ったアントーニョ。
「あのクソ眉毛、後で覚えとけよ」
そう悪態をつくアントーニョの顔は綻んでいた。
「全軍、ジブラルタルに帰還する！
クソ鬚の船に追いつかれんじゃねぇぞ！
全速前進で進め！」
遠くでアーサーがそう言う声に、アントーニョは深い深呼吸の後、ハルバードを甲板に突き刺す。
「今日の遊びは終いや！
俺らも帰るでぇ！」
そう言ったアントーニョはその場に座り込み、よく晴れた空を仰ぎ、どんどんと突き進む船が出す風に一人笑んだ。
二人が各々の場所に戻った頃、辺りは夕暮れになっていた。
別々の場所で二人は、怪我人の処置の指示や船の修理などに追われ、すべてが終わったのが夜も更けた頃だった。
アーサーは一人、ジブラルタルのとある場所に向かう。
月明かりの綺麗な月夜、ランタンの光が辺りを照らし、何もないその場所を明るく照らし出す。
しばらく進むと、ぼうっと淡い灯りの火が見えた。
「遅いで、アーサー。」
ランタンの火をアーサーのほうに向け、アントーニョが不機嫌そうな声を出す。
それに一瞬驚いたアーサーの顔は自然と綻ぶ。
「お前にしちゃ早いんじゃねぇか？
いっつも遅れてきやがるくせに。」
緩んだ顔を見せぬよう、ワザと足元を照らし、相手から陰になるようにしているアーサーに、アントーニョは気づかない。
「たまたま早く来ただけや。
てか、アーサーのが遅かったやん。」
いつの間にか近くに来ていたアーサーの服を無意識に掴むと、アントーニョは軽く俯く。
「ああ……怪我人が思いのほか多くてなっていうか、うちのも多かったが、お前んとのこ怪我人、ほぼうちに来てたんだよ。」
笑いながらアーサーがそう言うと、アントーニョは笑って誤魔化す。
「もぉ少し遊びたかってん。
フランシスの邪魔さえ入らんかったらよかったのに……。」
口を尖らせ、膨れるアントーニョの頬を撫でる。
それが心地いいのか、アントーニョはされるがまま。
「仕方ねぇだろ、あんな所でドンパチはじめたんだしなぁ。
まぁ、楽しみを邪魔しやがったあのクソ鬚は後でぶん殴るけどな。」
そう言ってアーサーが笑うと、アントーニョも笑う。
「どんな言いがかりで殴りかかるのか見ものやんなぁ。
まぁ、お前のことや、殴りたかったからっていう理由やろうけどなぁ。」
けたけたと笑うアントーニョに、アーサーは否定もせずその場に座り込むと、それに気づいたアントーニョもその場に座り込む。
それにふとアーサーは笑うと、どこからかスキットルをだし、蓋を開ける。
「ん？
それ、中身なんなん？」
興味深そうに覗き込むアントーニョを尻目に、スキットルに口付けると、アーサーはくすりと笑う。
「スコッチだな。
船員に詰めさせたから、呑むまでわかんなかったが。
呑むか？」
アントーニョにそう聞くと、寄越せといわんばかりに手を差し伸べてきた。
そんな彼の行動に、アーサーは含み笑いをすると、アントーニョにスキットルを渡さず、中のスコッチを口に含む。
「ちょ、なんなっ……んっ……。」
波も穏やかで晴天の空に、黒煙と共に大きな砲弾の音と、勇ましい男達の戦をする声が木霊する。
幾重もの船が船同士隣接し、船員も剣を持って双方の船を行き来し、雄たけびと共に剣を振るう。
海独特の匂いの中に、煙硝の匂いとむせ返るほどの血の匂い。
敵味方関係なく入り混じる船内に、鋭い目つきをした男達が傷を負い、自分の血なのか相手の血なのかわからない血飛沫を浴び、何処か楽しそうに相手と対峙している。
海に投げ出される者、船内の床に倒れこむ者はいるが、怪我をしている者達ばかりで、不思議なくらい死者は出ていない。
そんな男達の中、船首で太陽の光を浴びて、きらきらと輝く男が二人。
「年貢の納め時やで、アーサー｣
ハルバードを担ぎ、アントーニョは嬉しそうに笑う。
「はっ、その言葉そっくりそのまま返してやるぜ、トーニョ。」
クレイモアを同じように担ぎ、アーサーも嬉しそうに笑ったその刹那、二人の顔が真顔になり、自分の得物を振り下ろす。
鈍い金属音が当たり一面に鳴り響くと、今まで闘っていた男達が一斉に船首を見る。
「ちっ、んな馬鹿でけぇ斧振り回してんじゃねぇよ、くそったれ！」
ギリギリと刃先を合わせ、不敵に笑うアーサー。
それに軽く舌打ちすると、負けじとばかりにアントーニョはアーサーを押し返す。
「くそったれはお互い様やろ。
クレイモア片手でぶん回せるやなんて、ギルちゃんとお前だけやで！」
それを聞いてふとアーサーは笑うと、アントーニョの斧を押し返し、後ろを確認することなく飛び退く。
支えを失った斧はそのまま振り下ろされ、甲板を傷つけた。
「お前だって、これ位振り回せるだろ。
そんな馬鹿でけぇ斧振り回せるんだからよ。」
ニヨニヨとアーサーは笑うと、そのままアントーニョの懐に入り込み切りかかるが、それをハルバードを振り上げ阻止された。
そのままアントーニョの脇をすり抜けると、アントーニョは振り上げたハルバードを振り向きざまに振り下ろし、それをギリギリの所で腰に付いていたレイビアを抜きいてアーサーは攻撃を防ぐ。
それに舌打ちしたアントーニョは、真横からハルバードを振り、アーサーをめがけ振り払うと、ひらりとアーサーは飛び、ハルバードを足場に、また反対側に舞い戻る。
「相変わらずやなぁ、クソ眉毛。」
ハルバードを担ぎなおし、ニヤリと笑うアントーニョに、アーサーもつられて笑う。
「うるせぇ、眉毛って言うなっ！」
再度二人が戦闘モードに入りかけた時、遠方から砲丸の音が聞こえてきた。
二人の戦いを見取れていた船員は慌しく動き出す。
「なんや、もう時間切れかいな。」
残念そうに呟くアントーニョにアーサーは笑う。
「あれだけドンパチやってたんだ、来るのは時間の問題だとは思ってたけどな。」
クレイモアを甲板に刺し、レイピアを鞘に戻しながらアーサーがそう言うと、アントーニョも笑った。
「せやなぁ。
けど、来るのが遅かったんとちゃう？
のんびり屋はどこの奴やろ？」
ハルバードを降ろし、目を細めて遠方を見るが、どこの船だか見えない。
それにアーサーは笑いつつ、腰に付いていた双眼鏡で砲丸の音がするほうを見る。
「んー、あのジャックはフランシスんとこのだなぁ。
仕方ねぇ、今日は引き上げだ。」
双眼鏡をしまいながら、ふとアントーニョの方を見ると、詰まんなさそうな顔をしいてた。
「野郎共、今日はもう引き上げだ。
海に浮かんでる奴らも引き上げて帰るぞ！」
甲板に向かい号令をかけると、敵味方なくそれに従い、更に船員は忙しく動く。
「ああ、こっちの船におる怪我人はそのままにしといてええで。
後で送り届けるしなぁ。
その代わり、お前んとこにいる怪我人の世話頼むわ。」
ハルバードを担ぎ上げ、そう言って船員の下に向かおうとするアントーニョに、アーサーは手を取って止め、自分のほうに引き寄せると、そのまま頬に口付ける。
「また後でな、トーニョ。」
不敵に笑ったアーサーもクレイモアを引き抜き、担ぎ上げると、そのまま自分の船へと戻る。
突然の事に困惑しながら、どうにか船員の下に戻ったアントーニョ。
「あのクソ眉毛、後で覚えとけよ」
そう悪態をつくアントーニョの顔は綻んでいた。
「全軍、ジブラルタルに帰還する！
クソ鬚の船に追いつかれんじゃねぇぞ！
全速前進で進め！」
遠くでアーサーがそう言う声に、アントーニョは深い深呼吸の後、ハルバードを甲板に突き刺す。
「今日の遊びは終いや！
俺らも帰るでぇ！」
そう言ったアントーニョはその場に座り込み、よく晴れた空を仰ぎ、どんどんと突き進む船が出す風に一人笑んだ。
二人が各々の場所に戻った頃、辺りは夕暮れになっていた。
別々の場所で二人は、怪我人の処置の指示や船の修理などに追われ、すべてが終わったのが夜も更けた頃だった。
アーサーは一人、ジブラルタルのとある場所に向かう。
月明かりの綺麗な月夜、ランタンの光が辺りを照らし、何もないその場所を明るく照らし出す。
しばらく進むと、ぼうっと淡い灯りの火が見えた。
「遅いで、アーサー。」
ランタンの火をアーサーのほうに向け、アントーニョが不機嫌そうな声を出す。
それに一瞬驚いたアーサーの顔は自然と綻ぶ。
「お前にしちゃ早いんじゃねぇか？
いっつも遅れてきやがるくせに。」
緩んだ顔を見せぬよう、ワザと足元を照らし、相手から陰になるようにしているアーサーに、アントーニョは気づかない。
「たまたま早く来ただけや。
てか、アーサーのが遅かったやん。」
いつの間にか近くに来ていたアーサーの服を無意識に掴むと、アントーニョは軽く俯く。
「ああ……怪我人が思いのほか多くてなっていうか、うちのも多かったが、お前んとのこ怪我人、ほぼうちに来てたんだよ。」
笑いながらアーサーがそう言うと、アントーニョは笑って誤魔化す。
「もぉ少し遊びたかってん。
フランシスの邪魔さえ入らんかったらよかったのに……。」
口を尖らせ、膨れるアントーニョの頬を撫でる。
それが心地いいのか、アントーニョはされるがまま。
「仕方ねぇだろ、あんな所でドンパチはじめたんだしなぁ。
まぁ、楽しみを邪魔しやがったあのクソ鬚は後でぶん殴るけどな。」
そう言ってアーサーが笑うと、アントーニョも笑う。
「どんな言いがかりで殴りかかるのか見ものやんなぁ。
まぁ、お前のことや、殴りたかったからっていう理由やろうけどなぁ。」
けたけたと笑うアントーニョに、アーサーは否定もせずその場に座り込むと、それに気づいたアントーニョもその場に座り込む。
それにふとアーサーは笑うと、どこからかスキットルをだし、蓋を開ける。
「ん？
それ、中身なんなん？」
興味深そうに覗き込むアントーニョを尻目に、スキットルに口付けると、アーサーはくすりと笑う。
「スコッチだな。
船員に詰めさせたから、呑むまでわかんなかったが。
呑むか？」
アントーニョにそう聞くと、寄越せといわんばかりに手を差し伸べてきた。
そんな彼の行動に、アーサーは含み笑いをすると、アントーニョにスキットルを渡さず、中のスコッチを口に含む。
「ちょ、なんなっ……んっ……。」