もう少しだけ
耳元で囁かれる甘い言葉に、アムロの胸は更にドキドキと鼓動を上げる。
アムロの方も、シャアの白い首筋が目の前にあって、目のやり場にとても困っていた。
しかし、自分を包むシャアの香りに安心したのか、目を閉じてシャアの肩にそっと頭を凭れかけてみた。
手持ちぶたさだった自分の手を、シャアの背中に回す事は出来なくても、彼のコートの裾をちょっとだけ握ってみる事は出来た。
アムロの動きに気付いたシャアは、そろそろ離そうと思っていたのを止めて、もう少しだけ抱きしめる余韻に浸る事にした。
♪ピピピピッ
突然、電子音が鳴り響き、アムロの頭がシャアの肩から離れた。
「残念。時間だよ」
シャアが残念そうにアムロの顔を覗き込みながらそう言うと、頬にキスを送ってアムロの身体を解放する。
腕時計のアラームを止めたシャアは、アムロに向かってニッコリと笑う。
「続きはショーが終ってからでもいいかい?」
「えっ!?」
なにやら含みのあるシャアの言い方に、あっという間に真っ赤になる顔を両手で覆うアムロ。どうしようもなく恥ずかしくって、シャアの瞳から逃れる様に顔を背けるのが精一杯だった。
赤く染まった顔を慌ててネックウォーマーで隠したアムロの姿に、シャアはもう一度抱きしめたくなった自分を必死で抑えつける。
そして、テーブルの端に掛けられた傘を手に取り、開いた。
「二人で入るのにはちょっと小さめだが、なんとかなるだろう」
「えっ!?シャアさん、本当に傘を持ってないんですか?」
「持ってはいるが、折りたたみ傘なので何かと面倒なのだよ」
「でも、僕の傘に二人は無理ですよ。会場に着くまでに濡れちゃいますよ」
「大丈夫。大丈夫」
そう言うと、シャアはアムロの肩を抱き寄せ、傘の中に入れる。
「こうしてしっかりくっついていればね」
「ええっ!!」
「ほらほら、早く行くよ」
シャアに促されアムロも歩き出すと、元来た道を足早に戻って行った。
アムロと離れがたいと思っていたシャアは、あいあい傘は名案だったと鼻歌交じりで歩き進めていた。
しかし、アムロはあまりにも恥ずかしくて、人混みに出るまでにどうにかして止めさせられないかと考えつつも、ちょっとだけ嬉しい自分が居るのも分かっているので、無駄な考えばかりがぐるぐると頭の中を回っていた。
その後、雨は公園を出る頃にはピッタリと止み。嬉し楽しいあいあい傘タイムの終了を余儀なくされた。
終 2012/01/24