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いつかの風船

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 にぎやかな大通りに入ると、なんの宣伝だか、風船をこどもたちに配って歩いている若い男がいる。配っている男も笑顔だったが、当然受け取るこどもたちのほうも笑顔で、明るく楽しげだった。
「おーお、平和でいいねぇ」
 それを眺めたウォルターが、目を細めてつぶやく。
 本当に、平和そのものの光景だった。
 同じようにそれを見つめたアンディは、何も言わずに、風船を配る男の横を通り抜けようとした。
「はい、どうぞ」
「えっ……?」
 風船を差し出されて、思わず受け取ってしまう。次のこどもに渡すために去っていく男の後ろ姿を目で追ったが、もはや通り過ぎていってしまったものはどうにもならない。
「ええっ……?」
 アンディは呆然として立ちつくす。
 その手には赤い風船。
 そんなアンディの横で、ウォルターがふき出した。
「ブフォッ」
 『あーはっはっはっは、ひぃーっ』と大笑いするウォルターに、アンディが目を据わらせて、シャルルに恐ろしく低めた声で問う。
「……ねえ、本当に、執行人の判定書ってどうやったら出るの?」
「……」
 シャルルはたらりと冷や汗を頬に流して、そんなアンディとウォルターを見比べる。
 『くっくっ』とまだ笑いに引きつりながらウォルターが言う。
「よかったな、アンディ。風船もらえて。似合うぜ」
「ウォルター……」
 鋭い目つきをくれて、アンディはぶんっとカバンを振り上げる。だが、もう片方の手に風船があるのでうまくいかない。『おっと』と言いつつ、なんなく避けたウォルターは、ようやく笑いをおさめて、やさしげとも取れる穏やかな目をして言った。
「いいじゃん、持って帰れば? おまえの部屋、殺風景だし、飾っておけば?」
「いらないよ」
 むすっとしてウォルターから目を逸らし、アンディは憂鬱そうに赤い風船を見る。困った。どうしていいのかわからない。
「どうするんだ、それ?」
「どうしよう……」
 見かねて尋ねたシャルルに、ぼんやりと視線を返して、アンディはハッとする。
「そうだ、シャルルいる? これ」
「いや……」
 『えええっ!?』とシャルルが目を丸くする。いや、自分カラスだし、っていうかロボットだし。まさかこっちに来るとは、と……。どうして欲しがると思うんだ。
 だが、アンディは熱心だった。だってウォルターが欲しがるはずもないし、押しつける相手はシャルルしかいない。
「体に巻けば飛びやすくなるかもよ」
「いやむしろ逆……やめろーっ!!」
 結びつけようとする手から飛んで逃れる。冗談じゃない。
 アンディがつまらなさそうな顔をする。
「大体なんでボクが風船なんか……」
「ガキくせぇ顔してるからじゃねぇ?」
 今のやりとりでまた『プックックッ』と笑いはじめたウォルターの、そのついつい漏れた本音とも取れる言葉に、アンディの目が殺気を持って細くなる。でも風船を持つ手じゃ殴れないし、カバンは避けられたし。とにかく風船をなんとかしなければ。話はそれからだ。


作品名:いつかの風船 作家名:野村弥広