二次創作小説やBL小説が読める!投稿できる!二次小説投稿コミュニティ!

オリジナル小説 https://novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
二次創作小説投稿サイト「2.novelist.jp」

或る信者の独白

INDEX|1ページ/2ページ|

次のページ
 
或る信者の独白



エイス・テールの遺産と称される不思議ながらくたが、私の拠り所となったのは、
いつの頃からだろうか。それらは血肉を持たぬのに、まるで生きているかの
ように愛らしく動き回り、幼き日の私を魅了した。
そして何よりもそれらは、麻薬に溺れた残酷な義母が破壊しても、私がそれまで
愛していた犬や猫、小鳥達とは違い、仕組みを把握さえしていれば生き返え
らせる事が出来る。
ようやく、孤独の涙に濡れながら、新たな墓をこしらえる必要は無くなったのだ。
誰もこの私だけの玩具を取り上げる事は出来ない。
それはようやく得た心の平安だった。

洗礼を受け、はじめての神を選択する際に迷いは無かった。
傲慢に滅び去った古代の遺物への信仰など、と、揶揄する周囲の冷ややかな
視線を浴びたが、親しんで来た世界へのさらなる手がかりを得られると思うと、
心が躍ったのを覚えている。
信仰を定めて後、よりよくエイスの遺産への造詣は深まり、物理構造への理解が
飛躍的に開けるのを肌で感じるようになった。当初は気味悪がっていた周囲の
愚鈍な者共も、当時のイェルス国の台頭により、機械の必需性を目の当たり
にするにおいて、ようよう私が気狂いでない事を悟り、中には「神童」などと
誉めそやす者も現れ出した。

それら無能な有象無象の一人が私の知識を機械学術会院にて個人的に利用する為、
「両親」へ些少の金を積み、結果私は学徒として召し上げられる事となった。
二親の虐待が原因で死に瀕していた私は、かろうじて永らえる事が出来たのだ。
まだ純粋であった私は、これもまた崇める我が神の思し召しであると確信し、
ますます機械への理解と情熱を深くしていった。

最初に我が神が顕現された日を忘れはしない。術院にて駄馬のように扱き使われ、
酷く身体を壊した折、高熱に魘され夢現を彷徨っていた私は、強い郷愁にも
似た気持ちの昂りに襲われ、目を開いた。
汚い床へ虫のように横たわっていた私の傍ら、暗く、狭く、低い天井に圧迫
されるような形で、背の高い男が私を見下ろしていた。
故郷の初雪の様に淡くほの光る銀の髪から覗く、その感情の読み取れない目は、
悲しげに伏せられていた。暗いローブからそっと差し出される青白い手が、
私の目前に翳されている。
当時はまだ恐怖の対象でしかなく、常日頃から忌避していた大人の手が、
余りにも私に近接していたため、思わず反射的に叩き除けてしまったが、
彼は一言も発さず、表情も変えず、ただ私を見ていた。

「お前をこのまま朽ちさせるには惜しい。有能なる我がシモベよ。」

心に直接響く、静かに沁み渡るような声を聴いたその瞬間、私は最初に感じた
温かな感情の波を理解した。私の不幸な幼き日々を支えた親愛なる世界の主。
常から祈り捧げ、崇め称え祀りし我が親愛なる神が、降臨なされたのだ。
私は蕩ける様な安寧と共に意識を手放していた。翌日目を覚ますと、私の身体は
これまでに体験した事の無い生気に満ち満ちていた。
再三の求めにようやく応じたらしい、私の部屋を訪れた術院お抱えの低脳な
医師に、お前は完全な健康体であるのに、仮病で自分の手を煩わすな、と
忌々しげに吐き捨てられたものだ。

あの日より、我が神は、私の祈りに応じてしばしばお言葉を賜れるようになり、
またご顕現下さった。貪欲で未熟な学徒としての、拙く他愛の無い学術的
議論や問いを、我が神は優しく、時に父親や兄のような親愛を以て受け入れ、
その御顔をほころばせ、私を構造世界の理解の旅へと連れ出された事すらもあった。
肉体と時間の呪縛から解き放たれた、神の生きる空間を遊泳する日々において、
私の知識はいよよ増し加わり、その昇華と共に、数々の名声と富を手に入れた。

無論、私の名はどこにも残されてはいない、
身分と権威を持つ愚者共の脳として重用された結果である。
しかし、私には権力を繰るための時間の余裕など初から無かった。
我が偉大なる神の遺されし古代の大いなる遺産を前に、私はひたすら勉学と
発掘に励み、信仰を篤くし、神に祈り続けた。

いつしか私は、強大な力を得るようになっていた。発掘現場に現れる夜盗ども
から護身する為の鍛錬を積み、実戦を耐え抜く最中で、学者、技術者として
だけでなく、戦士、術士としての力量を高め、それを密やかに向上させ続ける。
真理と虐殺の日々に膨れ上がる、ある狂気を内に押さえ込みながら、
「その時期」を伺い耐え忍ぶ事が生き甲斐となっていた。
ただ一人、我が親愛なる御神のみは、私を永遠にお守り下さる。

狂気が弾けたあの日、私は誠に静謐な心で、己の感情に関わる全てのもの、
憎しみと愛情を抱いていた全ての人間を屠り、神に捧げ、それまでに得た
潤沢な資産を携え、国を捨てた。
私の存在は故国において正式に抹消されたが、
その時の私は非常に満ち足り、幸福であった。
私には、我が神への繋がりのみがある。

作品名:或る信者の独白 作家名:mt0ug