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としのはじめの

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   コタツにはいって、おせち料理食べて、餅をお雑煮にして。

「いいなあ。ニッポンのショウガツ」
 なんだか、子どもみたいにわくわくした顔をみせるのが珍しくて、ついそれに笑ってしまう。
 ひょんなことで知り合いになった、ロボットと日本文化を愛するこの留学生は、実は幼友達の友達だったりして、――― まあ、世の中広くて狭いもんだねえ、なんて笑ったのが去年の夏。







  ――― ※※ ―――




 とにかく、なぜかおれのまわりには、変わり者の留学生が多い。
 通ってる大学が、某お国の大学と、交換留学などの交流をしているせいもあるけれど、だからって、彼らをみて、あのお国の人柄を判断するべきではないと思う。留学で来るヤツらが、そろって変人なんだ。と、思いたい。
 おかげで、入学してからの間にもいろいろあったわけだけれど、年末にはだいたいの留学生が里帰りするので、とたんに身辺が静かになった。
 ちょっと、物足りない、なんて感じたことは誰にも内緒だけれど。


 年明けの、ちょっと時差のある挨拶をメールでやり取りして、向こうはむこうで盛り上がってる写真とかみて、こっちもみんなで盛り上がってる様子を送り返して、ちょっとふざけすぎたこともして、友達んちのすし屋を後にして、公園で新年花火大会とかして、おまわりさんにおこられて、一人暮らしのゴクデラくんも年が明けてから帰るっていうから、空港までみんなで見送って、そのまま今度は別の一人暮らしのショウイチんち行って、テレビ見ながら親に持たされたおせち食って、借りたDVD観て、三日からもう店の手伝いがあるって、一人抜けて、女の子と新年会あるからって、マシュマロくわえた男があわてて帰って、おれとショウイチは、中学、高校、となぜか腐れ縁の先輩のところに毎年欠かさず年始の挨拶に行っているので、今年もそうした。
 
 きれいに着物を着たその人は、あいかわらずの不機嫌さで(「また年末から群れてたの?」)おれ達を見比べ、隣にすわる上機嫌な人はあいかわらずの豪快な笑いで、今年も極限ヨロシクな!と杯を渡してきた。
 いや、まだ二十歳じゃないんですけど、という前に、機嫌の悪い人にジュースを注がれる。先輩達はすでに酒びん類を何本か空けているようだが、顔色も様子も、普段とまったく変化がみえないところが恐ろしい。
「来年は、いっしょにやれるな」嬉しそうに、くいっと、猪口をかたむける真似の『極限』先輩が、着慣れない着物の懐に手を入れてたりする様子に、ちょっと見とれた。
 ――― この人、時々へんにかっこいいんだよなあ。
 ごほん、と隣で咳払いされ、あわてて、先輩連名で渡されたお年玉にそろって御礼をいって、しびれる足をなだめて立つ。
「来年は、着物で来てよ」
 いきなりの希望。いや、命令か?
 不機嫌な先輩の真っ黒な目は、不機嫌ではない。
「・・いや、あの、・・持ってないし・・」
「うちにある」
「おれも毎年ヒバリに着せてもらってるぞ!」
「・・・考えておきます・・」
 なぜか顔が熱くなり、隠れるように退散した。
「―― 来年は、ナナさんに頼んで、最初から二人で着物きて行くか」
「ショウちゃん!!おまえのそういうとこ大好きだ!!」
「友がみすみす餌食にされるのは、見過ごせないからね」
「エジキ?」
「ツナが、笹川先輩に弱いってはなしだよ」
「弱い?おれは断然ヒバリ先輩に弱いぞ。うん、それは確かだ。いつ会っても怖い!」
「そういうんじゃなくって・・・、まあいいや。おまえあの先輩の妹さんに」
「わあああああ!!その話はもういい!ストップ!」
「・・彼女、留学しちゃったんだっけ?」
「そういえば!留学組はなにやってんだろなあ。ねえ?」
 自分でもごまかし方がヘタだと思うが、しかたない。
 たとえ友達といえども、聞かれたくないこともある。
「―― あいつらもきっと、まだつるんで過ごしてるんじゃないかな。なんだかんだいって、留学組も仲いいから」
「そ、そうかな?」本当に仲がいいかどうかはおいておくとして、こうして下手なごまかしにのってくれる、この友達が好きだ。
「ああ、そうだ。帰ってDVD続き観て、返しにいかないと」
「え?あのホラーまだ観んの!?」
「選んだのはツナだろ?」
「そうだけど、あんなに怖いなんて・・・」
「だから言ったのに。だいたいおまえは、―― あ、待った」
 片手をあげた相手が、ポケットからスマートフォンをとりだし、眉をしかめながら耳へあてる。
「なに?わかってるよ。・・・はあ?なんで?おまえなにやってんだよ?」
 珍しく声をあらげて眼鏡を押し上げた。
 なんとなく予想はついたが、電話を終えた男が眉をしかめたままこちらに謝る。
「ツナ、悪いけどさ、あのDVD返しておいてくれるか?」
「もしかして、マシュマロマン?」
 当たったらしく、憮然としながら部屋の鍵を渡された。
「ったく。頭がいいのは認めるけど、常識がないんだよ。あの男」
「会社、もうやってるんだ?」
「ネット社会に年末も年始もないからね。とにかく、それと別に人間同士のマナーがあるってのを、あいつは理解できないんだな」
「だからショウイチが選ばれたんだって。常識もあって、信頼もある」
 あの、一見軽くてチャラそうなマシュマロ男が会社をおこしたのは、彼がまだ高校生の頃。大学に入ってからその会社の役員だという上級生たちに、ぜひ入社してほしい、と請われたこいつが、その会社を急成長させているのは、誰もが認めるところだ。
 今では、社長を務めるマシュマロ男の暴走を止められる唯一の人間として、仕事もプライベートも関係なく呼び出される。
 その『社長』に紹介されておれもマシュマロ男と知り合いになったけれど、そいつは、留学生の上をいく変わり者だった・・・。
 とにかく、そんなヤツをたしなめてとめることができるのは、目の前にいるおれの友達だけだ。
「・・・・ツナ・・」
「ん?・・どうした?」
 なんだか、静かによばれみた顔が、なぜか赤い。
「いや、・・・その・・。やっぱ、DVD返さなくていいや。戻ったら、一緒に観よう」
「え〜・・やっぱり観るの?」
 いきなり、手を、つかまれた。
「観る。・・そんで、」ぎゅっと、手を握られる。
「『そんで』?」
 どうしたのかとみた相手の顔が一瞬ゆがんだようにみえた。
「・・・一緒に返しにいって、コンビニ寄ろう」
「ああ、うん。いくいく」
 にぎられた手を、握手みたいに振った。
 ちょっと驚いたように見開いた眼が、ふっとゆるみ、再度、ぎゅっとにぎりこまれる。
「今年もよろしく」
「あ、こちらこそ」
 正月の人通りもない道の真ん中。
 改めて頭を下げあった。


 ショウイチに渡された鍵をポケットの中もてあそびながら、アパートに一人引き返す。
 途中、留学組みからメールがきたりして、こっちもからかい半分の文を送り返す。
 むこうも、別行動に移ったらしい。
作品名:としのはじめの 作家名:シチ