としのはじめの
リボーンとビアンキが別荘?・・・あいつらしい・・。スカル?なんだ?ひとりでツーリング?いや、これ友達か?みんなでお揃いの格好だよ・・・。コロネロはキャンプ?あ、ラルと『合宿』か?あ〜・・、『野営』ね。そういう趣味の友達、って・・・この人たち軍服着てるけど、にせものだよね?・・あ、スクアーロじゃん。へえ。こっちもみんなで別荘ねえ。たしかにザンザスってお坊ちゃんだってきいたけどさ。わ!でっかい別荘!!こりゃ本物だあ。
にやけながらそれらに一通り返信し、アパートの鍵を開けて入ったところで、突然、思いだす。
・・・ひとり、連絡来てないのがいる・・・。
急に寒気を覚えるように、そいつの顔が浮かび、くぐったドアを再度飛び出した。
『・・・そういえば、おれのとこにも連絡きてない・・』
「わかった。すぐ行ってみる」
ショウイチの声もいくぶん青ざめるようなもので、通話を切ってそのまま電車にとび乗る。
初詣の帰りらしい乗客たちは、いちように明るい顔と声で、陽もくれかけた中を走る電車の窓に、こわばった自分の顔が映りこみ、思わず眼をそむける。
――― 最後に会ったの、いつだ?
記憶はあてにならないから、携帯のスケジュールで確認した。
12月23日《みんなで忘年会》
そうだ。ここから26日まで、みんなで一緒にいた。
で、里帰り組を28日に見送りに行って・・・。いや、あいつはそこに、いなかった。
「・・いっしゅうかん・・・」
思わずこぼれたひとりごとに、そばの人の顔があがり、あわてて向きを変える。
そうだ。一週間だ。
目的の駅で開いたドアから、すりぬけるようにホームへ駆け下りた。
木造の古いアパートのドアを叩く。コンコンとかん高い音が響くが、部屋の中からは何の反応も無い。ドアノブをまわせば、いつものようになんなく開いた。
「っおい!スパナ!!生きてるか!?」
踏み込んだ中は外と変わらない寒さで、生活感のないそこには人の気配が無い。
電気をつけ、勝手にあがって、せまいその部屋を調べる。
流しも乾ききり、生ゴミもないのはいつものことだが、いつもは部屋のすみにきれいにたたまれている布団は敷かれて乱れたまま。肩にかけて持ち歩いているバッグが、隅に置かれたままだ。勝手にあけた中には、財布や携帯がはいったままで、こちらが何度もかけた不在通知のランプがむなしく点滅している。
「・・そんな。・・・まさか・・・」
いやな予感。
ずぼらなようで意外と几帳面な留学生は、人から借りたものはきちんと返すし、大切に使う。だから、この部屋もそうだ。
機械いじりが生きがいのような男は、作業はここでは絶対にしないし、道具も持ち込まない。趣味である、愛する日本文化の飾り物(提灯とか木刀とかフィギュアとか・・・)だけが、この部屋のうすぐらい鴨居のふちを少し借りているだけで、畳が傷つくという理由で、テーブルや座卓も置かないのだ。入ってすぐの、ビニールが敷かれたような冷たい台所に、ショウイチからもらったという丸椅子がひとつあるだけ。
ずぼらなのは、自分自身に関してだ。
作業にのめりこむと、飯もとらない。水分も同様だ。
自分で作るのだという棒飴をくわえたまま、何時間でも集中する。
納得できて顔をあげるのは、次の日になってから、なんていうことがざらにある。
だから、夏場には脱水症状で作業場に倒れてるのを三回ほど見つけたし、心配になってのぞいたこの部屋で、熱中症で動けないのを見つけたこともある。
――― まさか、今回も・・・。
スパナが困って連絡をしてくるのは、ショウイチかおれのところだ。
作業場の脱水症状のときには、無言電話だったし(しゃべれなくて)、熱中症のときは「あ・・」だけだったけど、電話の相手がスパナとわかれば、だいたい想像はついた。
いつも、もっと早く連絡するように言うのだが、遠慮してるのか集中しているからか、最後の状態になって、ようやく連絡してくるのだ。
布団をさわる。
冷えている。
ずっと、寝ていたのだろうか?
もしかして、26日あとから風邪をひいて、今日までだれにも知られることなく、ずっとひとりで?
「どこ、いっちゃったんだよ?」
あせってまわりを見ても、手がかりになりそうなものはない。
自分で病院に行くとは思えないし、学校の作業場は年末年始には開いていない。
そうだ。
26日のとき、彼も帰るのかと聞いたら、わからない、と答えたのだ。
28日に里帰り組にいなくとも、普段からリボーン組とあまり付き合いのない男だから、気にならなかった。
「―― どこだよ?」
アパートからあてもなくとびだし、暗い通りの左右をみる。
まさか。
誰かに具合の悪いのを見つけてもらって、・・・運ばれたとか?
いや、それなら学校経由で教官からショウイチにも連絡がはいるはずだ。
でも、じゃあ、どこに?
夏に知り合って半年。
あの男が行く場所が、他に思い浮かばない。
「・・・どうしよう・・・」
きっと、どこかで行き倒れになってしまったのだ。
いつものように口もきけないほどの状態で。
「・・す・・ぱな・・どこ・に・・」
友達と呼べるのは、ショウイチとおれぐらいだと言っていた。
どうして、もっと早くに気付いてやれなかったんだろう。
やみくもに暗い道をかけまわり、濡れた目元をぬぐい、アパートにとりあえず戻る。
とにかく、近くの病院に、身元不明の外国人がかつぎこまれてないか、――――。
開けたドアのむこうで、ひょろりと立つ外国人が振り返った。
「つな?どうした?」
「・・・・あ・・」
「泣いてるのか?なにがっ、!?」
だきついた相手もろとも床に倒れた。
痛いよ、と冷静な声をだす男のパーカーで顔を拭いてやる。
「どうした?」
「ど、どうしたじゃないよ。それはこっちがききたいよ。具合は?」
「具合?いや、普段と変わらないけど」
「どこ行ってたんだよ?」
「セントウ。ここは湯船ないから」
「・・・26日すぎからどうしてた?」
「ここにいた」
「・・・なんで、連絡してこないんだよ?」
「―― だって、べつに具合悪くもなかったし」
「・・・年末は?」
「だから、ここに、」
「ひとりで?」
「どうした?ツナヨシ?なんで泣くんだ?」
「―― ばか!!なんで帰らないって連絡してこないんだよ!」
「・・・したほうが、よかったか?」
「だって!・・・じゃあ、・・カウントダウンは?」
「ああ。時計はちゃんと合わせた」
「そうじゃなくて!・・・スパナ、・・・年越し、ひとりだった?」
「うん。・・・わ、どうした?具合が悪いのか?」
すがりつくのをもてあますように、相手が戸惑うが、そんなのおかまいなしだ。
「・・・ごめん。おれたちが早く気付けばよかったのに・・」
「なにが?」
顔をあげてみた相手は本当にきょとんとした顔でこちらを見返す。
「・・いっしょに、年越し・・・」
「ああ。・・いいよ。ツナたち、友達と集まってたんだろ?」
「だからあ、おまえだって、その『友達』じゃん!」
胸倉をつかんでいえば、青い眼がめずらしく丸くなる。