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百合の花束

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 空を見ている。真っ赤な夕焼けだ。
 一筋の光がきらめいて消えて、辺りはいつの間にやら濃い闇の中。
 先ほどまでは薄青い空に微かに黄色の帯さえ残っていたというのに。
 夕日が沈んだとたん、まるで別の世界に入り込んだように、あっという間に真っ暗闇になってしまった。
 ……そう、世界に自分しか存在しないみたいに。
 そこでハッとして隣を見る。
 先ほどまで手をつないで隣に立っていた相手。
 一緒に夕焼け空を見つめていた女の子。
「あっ……」
 何もつかんでいない手を驚いて持ち上げて呆然と眺める。
 確かに手をつないでいたのに。
 隣にいたはずなのに。
 向けた視線は何もとらえない。
 ただの暗闇。
「……!」
 誰かの名前を呼ぶ。
 ……誰だ?
 誰か、とても大事な……大切な、大切な……。
 闇の中を駆け出す。
「……! ……!!」
 声が出ない。思い切り叫んでいるはずなのに。
 必死に手をのばす。何も触れない。
 ただ、闇があるのみ。
 ……ああ……。
 あれは絶対になくちゃいけないものだったのに。
 この世界に必要なものだったのに。
 ……この、俺の世界に。
 神様、もし叶うならば……。
 光を。彼女を照らし出して。
 見失った彼女の手を、笑顔を、姿を……俺に。
 願いに応えるように、パッと辺りが明るくなる。
 眩しい光に目を細める。その目を、ゆっくりと大きく見開く。その目に映ったのは……。
 赤々と燃える教会。
 ああ、そうだ。ここにたどりつく。いつも、ここに。
「エミリー……」
 呆然としてつぶやく。
 だって彼女は……そうだ、エミリーは……もう、この世界から消えて。
 ゆっくりとくずおれる。
 もう……遅い。


 カッと目を開く。
 目に映る天井。雑然と散らかった部屋。自分の……。
 ウォルターはゆっくりと身を起こし、顔を手で覆う。冷や汗で濡れた額。
 ……夢だ。
 でも、夢じゃあない。
 ゆるゆると首を振る。そして、夢の名残りを振り払う。
 こんなの何度も見る夢のひとつだ。
 そう、過去のこと。
 だが……。

 自分にとっての『光』は彼女だった。

 暗闇を照らす光は。

作品名:百合の花束 作家名:野村弥広