波乱万丈*ディシディアプロジェクト
突然頭を下げられたライトニングは一瞬だけ驚いた表情を浮かべ、その後に薄く微笑んだ。
「なんだ、そんなことか。気にするな。失敗は誰にでもあるし、お前は最後までやりきったんだ。何も恥じることなどないだろう?」
その言葉に、フリオニールは二の句を継げなくなった。自分のせいでライトニングは何度も何度も同じシーンを繰り返すはめになったのに、そんな言葉をかけてもらえるなんて。それに、ライトニングはいつも仏頂面で怒っているように見えるのだが、こんなに柔らかく笑うことも出来るのかと。
「ん?どうした? 顔が赤いぞ」
ライトニングがフリオニールの顔を見て怪訝そうに尋ねる。
「あ、い、いや、大丈夫だ。何でもないんだ」
必死に弁解するフリオニールだが、ライトニングのほうは別段気にしなかったらしい。以外だが、彼女はそういったことに関してはあまりにも疎いのだった。
そんなこんなで、一日の撮影を終えたコスモス陣のメンバーは、この世界での唯一の宿に泊まることになった。
今日撮ったのは、主に最後の戦いとなる十三回目の戦いのシーンが多かった。きっと翌日は十二回目の戦いのシーンを多く撮るのだろう。
「……俺は疲れた。先に寝させてもらう」
真っ先に布団へと潜り込んだのは、意外にもクラウドだった。彼はこういった大所帯で動くことに慣れておらず、恐らく気疲れしたのだろう。疲れたときは、寝るに限ると彼は思う。しかし、彼に安息の時間はそう簡単には訪れてくれなかった。
――ばふっ。
寝ようとしていたクラウドの頭に、そば殻の枕がダイレクトアタックしてきたのだ。部屋が不気味なくらいの静寂に支配された。やがてむくりと起き上がったクラウドの髪は、枕につぶされたせいでぺしゃんこになっていた。
「誰だ、今これを投げたのは」
ただでさえ低い声なのに、それをも凌駕するほどのドスの効いた声音。明らかに怒っている。
「お前なあ! 最後スコールがあんな良いこと行ったのに、それに対してあの台詞はないだろ!」
「そうだぞクラウド! あの冷徹なスコールがあんなに優しいことを言ったのに!」
そう、それは本日最後の撮影での出来事だった。十三回目の戦いを終え、カオスを倒し元の世界へ各々がそれぞれの世界へ戻っていくシーン。監督からの指示は、たった一言だけだった。
「あなたたちの素直な気持ちを言えばいいのです。自分の言葉で、さよならを飾ってください」
いわゆる、アドリブみたいなものである。ティーダもジタンも、彼ららしいさよならの仕方だった。そしてジタンの後のスコールの言葉。
「またともに任務を果たすのもいいかもな」
いつものスコールではまず絶対に言わないであろうその台詞に、その場全員が笑顔になった。
それなのに、その直後のクラウドの台詞が火種になったのだ。
「……興味ないね」
その言葉には、その場全員が凍り付いた。
「思い出したかクラウド!」
「思い出したもなにも、俺はほんとうのことを言っただけだ」
――ぼふぼふっ。
今度は枕が二枚も飛んできた。
「ほら、みんなもぼさっと見てないで、クラウドをこらしめるんだー!」
そのバッツの声が引き金となった。メンバーのほぼ全員が、ちからいっぱいクラウドにありったけの枕を投げつけ始めたのだ。どこから持ってくるのか、無限に用意されているのではないかと思ってしまうほどの大量の枕がクラウドめがけて宙を舞う。
「え……っと、これは止めた方がいい……よね?」
ユウナがこそりとティーダに耳打ち。するとティーダは彼女にひとつの枕を渡した。
「せっかくだし、ユウナも投げちゃえばいいッスよ!」
ユウナは渡された枕をまじまじと見つめる。なんだか普通の枕ではない気がするが、この際だ。軽くでもいいから投げてみよう。
「……えいっ」
ユウナがちからいっぱい投げた枕は見事クラウドの顔面にストライク。百戦錬磨のクラウドも、これには為す術もなかったようで、力なく布団に倒れ込んだ。
「え?え?」
自分が何をしたのかまるでわかっていないユウナ。クラウドはユウナを睨みつけるが、ユウナに悪意はこれっぽっちもないことをすでに理解している彼は、ユウナを叱ることなどできるはずもなく。怒りの矛先は、やりたい放題してくれた男性陣へと向いた。
クラウドの手の中にある大きな石が、まばゆいばかりの光を放ちだした。
「うわっ、それだけは勘弁!」
「もう遅い……アルテマ!」
その夜、部屋にいた全員が、宿の管理人から長々と説教を受けたそうな。
‐end‐
作品名:波乱万丈*ディシディアプロジェクト 作家名:架月るりあ