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架月るりあ
架月るりあ
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波乱万丈*ディシディアプロジェクト

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「私がこのプロジェクトの責任者であるコスモスです。みなさん、よろしくお願いします」

 それはさながら鈴の音のような声音。そうして、ディシディアプロジェクトは幕を開けたのだった。







 一番最初のシーンは、ウォーリア・オブ・ライトとコスモスの、ふたりきりのシーン。
ウォーリアが倒れているところに、この世界の神であるコスモスが舞い降り、ふたりの出逢いのシーンである。

「うっわー、なんかあのふたりお似合いッスね」

「うんうん。これこそオトナの世界って感じだな!」

 撮影風景を見ていたティーダとジタンはまさに言いたい放題。しかしウォーリアとコスモスの演技はまさに完璧。台本通り、いや、それ以上のクオリティを見せつけてくれた。

 しかし、ふたりの間に漂う空気が、なんとなく艶っぽいオトナな雰囲気に変わりつつあるような気がする。

「でもさ、あれってなんかあやしくない?」

 そこへ口を挟んだオニオン。彼の表情は幾分か疲れているようにも見える。

「ん?何がだよ」

 バッツのその問いに答えたのはオニオンではなく、ラグナだった。

「あー、ありゃ完璧にデキてるな」

 その言葉に、ラグナの後ろでトロピカルジュースを飲んでいたフリオニールが盛大に吹き出した。

「で、で、デキてるって……どどどどどういう意味だ?」

「ばーか。デキてるってのはそのままの意味だよ」

 そんなどうでもいいような話題で盛り上がる、コスモスの男性陣。しかし彼らは数秒後に自らに降りかかる災難をまだ知らない。
 背後から忍びよる不気味な影。その人物はわなわなと拳を震わせ、刃のように鋭い殺気を隠そうともせずに男性陣へと忍び寄る。

「……ん?」

 それにいち早く気づいたのはヴァンだった。空賊になりたいという夢を持つ、子供のような無邪気な性格の青年だ。
そんなヴァンだが、背後を振り向いた瞬間、身体の血が一気に引いていくのを感じた。
 殺気の主は、ライトニングだった。先ほどフリオニールが吹き出したトロピカルジュースを頭からかぶったらしく、彼女の衣服は鮮やかなブルーに染まり、彼女のさらりと流れる髪は見事なほどにベタベタに固まってしまっている。ライトニングの堪忍袋の緒は、もはや限界だった。

「お前ら全員……地獄に堕ちろ!」

 ライトニングの美脚が男性陣に襲いかかる。さすがは元軍人。身のこなしは実に軽やかで、もはや凶器と化した脚で次々と男性陣を仕留めていく。

「ライトニングさん、すごいですね」

「すごい……というか、まああれは自業自得よね」

「いけない! 手当てしなくちゃ!」

 そのライトニング無双を蚊帳の外から傍観していた女性陣。ライトニングの美脚に倒れたメンバーを治癒すべく、慌てて駆け寄るのはティナ。その身に強大な魔力を宿しているため、そのちからをティナ自らが恐れている節がある。
 そんなバカ騒ぎのなか、ウォーリアとコスモスのシーンの撮影は無事に終わっていた。
「ウォーリア。次はわたしたちの出番はありませんよ」

「そうなのか。では私と喫茶店でも行かないか」

「良いですね。お店はお任せします」

 その会話を聞いていたのは、ライトニング無双から逃れたスコールだった。

“やはりこのふたりはデキているのか”

 決して口には出すことのない、心の中でのつぶやき。

「おい! ウォーリアがコスモスと一緒にどっか行ったぞ!」

「なんだって?それはもしかして……」

「デート、だな。やっぱりあのふたり、デキてんな」

 先程ライトニングの美脚の前に倒れたジタンとバッツとラグナ。ウォーリアとコスモスがふたりきりで出かけた事実を知ると、すさまじい勢いで起き上がり、一目散にふたりが消えていった方向へと走り出した。つい何秒か前には瀕死状態だった人間とは思えない。

「あの三人、懲りないッスね」

「そうだね。でもそれが彼らのいいところなのかもしれないよ」

 さきほどライトニングに釘を刺されたにもかかわらず、まったく懲りた様子もなく再び暴走する三人に、思わず苦笑するティーダ。セシルも同じく、苦笑い。
 このメンバーはほとんどが面識のない人間ばかりだ。だからこそ、彼らのムードメイクはありがたい。
 そんなふたりのもとに、ティファが小走りにやってきた。彼女の戦闘スタイルは体術。その細いからだから派想像もつかないほどのパワーを備えている。

「次はティナとセシルの番だって」

 そう。次はティナとセシルがふたりきりで語らい合うシーンなのだ。ちなみにこのキャスティングは監督の趣味なのだとか。

「うん、わかった。頑張ろうね、セシル」

「うん。ティナの足を引っ張らないよう、頑張るよ」

 そう言って微笑み合うふたりは、まるで絵画のように美しかった。まるで恋人同士のような甘い雰囲気が漂う。
 その様子を木陰からそっと見ている人物がいた。

「セシルにティナは渡さない…‥!」

 それはオニオンナイトであった。彼は自分がティナを守ってみせるといういわばプライドがあった。しかし、台本を見るとオニオンがティナを守るシーンはあまり目立たないことがわかる。そのことに、オニオンは不満を抱いていたのだった。

 そして、ふたりのシーンの撮影が始まった。

「……だからティナ。この戦いを乗り越えよう」

  野原のなかにセシルの力強い言葉が響く。このシーンは、元の世界に還ることへの不安を訴えるティナを、セシルが優しく諭すというシーンだ。

「うわあ、こっちもこっちで良い感じの雰囲気ッスね」

「やっぱりティナとセシルが並ぶと、絵画みたいだな」

 口々にふたりを絶賛するメンバーたちだが、そこに例外が約一名。

「認めないよ! ティナは僕が守るんだ!」

 完璧に、セシルへの対抗心を燃やしているオニオンに、ラグナがにやりと唇の端をつり上げながら、ぽんぽんと彼の小さな背中を叩いた。

「諦めろ。相手があいつじゃあ、かなわねえよ。相手が悪かったんだよ」

「諦めるもんか! ティナには僕がふさわしいってこと、いつか証明してみせるんだ!」

 そう言い残し、オニオンはどこかへ走って消えてしまった。







「お前のだったのか。それなら早く言えば良かっただろう」

 城のセットの上で、フリオニールとライトニングのシーンを撮っていた。ここはライトニングが拾ったのばらをフリオニールが譲り受ける場面だ。

「……私にくれないか」

 辺りに、ライトニングの憂いを帯びた声が響く。さすが、というべきか。ライトニングの演技は完璧だった。対してフリオニールは緊張のあまり声が裏返ったり台詞を噛んだりするため、これも何回目のリテイクなのかもはや数えるのも煩わしい。
 何十回目のリテイクの後、ようやく監督が納得のいくシーンが撮れたようで、ふたりは長い撮影からようやく解放されたのだった。

「あ、あの、ライトニング」

 おずおずとライトニングに話しかけるフリオニール。なぜ彼女に対するときだけはこうもへたれになってしまうのだろうか。

「その……俺のせいでライトニングにまで迷惑をかけてしまって……すまなかった」