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架月るりあ
架月るりあ
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君のために、僕がいる。俺のために、お前がいる。

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 いつもと同じ、帝都の朝がやってきた。目覚まし時計が控えめに鳴り響く。フレンはまだぼうっとする頭で、アラームを止めた。
時計の針は朝の六時を指していた。緩慢な仕草で上半身を起こし、思い切り伸びをする。
爽やかな青のカーテンを開けると、もう外は明るんできていた。朝の凛とした風が、彼の髪をもてあそんでは去っていく。耳を澄ませば小鳥のさえずりが聞こえてくる。まるで、小鳥たちの合唱のよう。空を見上げれば、絵の具をこぼしたような蒼く蒼い空がどこまでも続いていた。その空という名の海に浮島のように浮かぶのは、白い綿菓子のような雲。心地の良い朝だった。
 フレンはあの戦いの後、皇帝から正式に騎士団長として任命された。それは彼の理想を実現するための更なる一歩である。
その朝は、まるでそんな彼を祝福するかのようにきらきらと輝いていた。

「今日も良い天気だ」

 そうひとりごちた刹那、部屋の扉を静かに叩く音が聞こえた。可憐な桜の花びらのような声とともに。

「フレン。起きてます?」

 その声は紛れもない、副帝エステリーゼの声だった。エステリーゼ――通称エステルは今、皇帝ヨーデルの補佐役、副帝として執務をこなしている。その執務の合間を縫って、彼女はハルルへ赴き、絵本作家としての仕事も両立させている。
そんな忙しい毎日を送る彼女の姿を目の当たりにしたフレンが大変ではないかと問いたところ、彼女は笑顔で「好きなことですから、あまり大変ではないです」と答えていた。

「エステリーゼ様?どうしました?」

 扉を開けると、普段着に身を包んだエステルが立っていた。その整った顔に穏やかな笑みを浮かべながら。

「ヨーデルから伝言です。今日一日、フレンが仕事をするのを禁止するそうです」

 一瞬、彼女が何を言ったのかわからず、思考が固まった。皇帝からの命は今まですべて従ってきたが、この命はいささか難儀である。    
しかしすぐに我に返り、エステルに詳しい事情を尋ねることにした。彼女が言うには、この命令はここのところ激務が続いているフレンを思いやっての命だとのこと。
フレンは少々真面目すぎるきらいがあり、自分から休暇を取ることを滅多にしない。休みなく働き続けているために、いつか体調を崩してしまうのではないかとヨーデルは危惧しているのだ。

「し、しかしエステリーゼ様。私には、まだ残っている仕事が――」

「だめです」

 ぴしゃりと言い切られ、これにはさすがのフレンもお手上げ状態である。どうも彼女の前だと調子が狂う。

「たまにはお出かけでもしてきたらどうです? ユーリもきっとフレンに会いたいんじゃないでしょうか」

 確かに、ここ最近は騎士団長としての仕事が忙しく、彼には久しく会っていない。彼も彼でやるべきことがあるのだろうが、こうも長い間会っていないといささか寂しくなるのも事実。
離れていても心はずっと繋がっていると信じてはいるものの、やはりたまには顔を見たいときもある。

「‥‥そうですね。仕事が出来ないのなら、それもいいですね」

 そう言って、フレンは柔らかな微笑みを見せた。それを見たエステルもまた、たちまち笑顔になり、そっと静かにフレンの部屋を去った。
 親友に合うのに、重苦しい鎧などいらない。彼の前では、騎士団長の自分ではなく、ただの”ユーリの親友”の自分でいたい。
いつも来ている団長服を脱ぎ、もはや普段あまり着ることのなくなった軽装を身にまとう。彼とは対照的な、明るい色調の軽装だった。

 自分を気遣って休暇をくれたヨーデルに一言挨拶を残し、フレンは城の外へと出た。身体全体で風を、帝都の空気を感じる。別段城の中が嫌だというわけではないが、やはり外は開放的で心地が良い。 
城の前は貴族街である。着飾った貴族達が談笑している風景を横目で見ながら、向かったのは下町。
そこは自分と親友が生まれ育った町である。自然と足取りが軽くなる。
貴族街と違い、何の飾り気もない町。しかしフレンはそれがとても気に入っていた。彼にとってこの場所はとても居心地が良いのだ。

 町に着くと、早速下町の子供達が群がってきた。下町育ちでありながら騎士団長という栄職についたフレンは、子供達にとってはまさにヒーローである。
怒濤のような質問攻めに遭いながら、フレンは親友の姿を探した。普通ならギルドに所属する彼がこんなところにいるとは思えないだろうが、彼には確信めいたものがあった。彼なら必ず、ここにいると。
何の根拠もないけれど。こうしていれば、彼がまたいたずらっぽく笑って語りかけてくれる、そんな気がして。

「騎士団長様が、こんなところで油売ってていいのか?」

――ほら。やっぱりいてくれた。

自分より幾分か低い声色。それでいて、その声は自分をからかうような色を含んでいる。それは間違うことなく、あの親友の声。彼の声を自分が聞き間違うはずがない。子供達を掻き分け、親友に歩み寄る。

「君こそ。今頃はギルドで魔物を薙ぎ倒しているかと思ったよ」

 そう言うと、ユーリはいつものようににかっと笑った。子供の頃から変わることのない、明るい笑顔で。

「休暇貰ったんだよ。お前と同じでな」



◇◆◇



下町の噴水の縁に腰掛け、ふたりは久方ぶりの再会を喜んでいた。水魔導器はなくなったものの、この噴水は下町のシンボルである。どうにかして復旧させたいと、町の人々が時間をかけて作り直したものだ。
ふたりの話は尽きない。ふたりとも、互いに報告したいことが山ほどあるのだ。
その様子からは、あれからの時間の経過など微塵も感じない。幼い頃から一緒だったふたりである。
ちょっとやそっとの時間の隔たりなど、意味をなさない。そのくらいでは、このふたりの絆が壊れたりはしないのだ。

「ふーん。やっぱ騎士団長ってのも大変なんだな」

 ふと、ユーリがそんなことを呟いた。フレンは思わず苦笑する。確かに騎士団長の仕事はとても厳しく、大変と言えば大変である。しかし、大変なのはなにもフレンだけではない。ユーリ自身だって忙しいはずなのである。

「何を言っているんだ、ユーリだって同じだろう?」

 そうフレンが尋ねると、ユーリは平然と言い放った。

「俺?俺は忙しくなんてねえさ。好きに暴れられるしな」

 とても彼らしい答え。彼もまた、今の状況に満足しているのだろう。それはフレンとて同じ。自分の理想の実現のための仕事である、忙しくても辛いと感じることはないのだ。
そんな充実した日々が、ふたりをより高めていた。
笑いあうふたりの前を、何人かの子供達が通り過ぎていった。とても楽しそうに笑いながら、ボールを片手に駆け抜けていく。下町にも、ずいぶん活気が戻ってきた。それは紛れもなく、フレンの活躍によるもの。

あの一件で活気を失った下町を、騎士団の全力をもって復興させたのだ。その手腕はユーリも思わずうなってしまうほどである。
なにより、権力に魅せられた貴族院の老人たちを説得したということが、前代未聞であった。彼らは下町などには見向きもしないはずが、フレンの熱意にとうとう頭が下がったらしいのだ。