彼氏の言い分、振り回され王選手権
本編
家具がほとんどなく全体的に白っぽい殺風景な部屋である。
そこに、飾り気のカケラもないテーブルとパイプイスが置かれている。
パイプイスは五個。
それぞれ、だれかが座っている。
部屋にいるのは、地の王アマイモン、志摩柔造、奥村雪男、ギルベルト・バイルシュミット、ベルゼブブ優一だ。
アマイモンはいつもと同じ格好、柔造は仏教系祓魔師の服装、雪男は一般的な祓魔師の服装、ギルベルトは軍服、ベルゼブブは魔界にいるときと同じ姿である。
テーブルの上には三角柱が長方形の面を下にして置かれている。
そして、その三角柱にはなにかが書いてある。
本日のお題、だ。
それぞれ自分がどれだけ彼女に振り回されているかを語り、振り回され王を決定すること。
「……振り回され王って、もらって嬉しい称号なんか?」
とりあえず柔造が関西人らしくツッコミを入れた。
「まあまあ、いいじゃないですか」
アマイモンが無表情で言った。
「じゃあ、ボクから行きましょう」
「あの」
雪男がアマイモンに声をかける。
「しえみさんは彼氏を振り回すタイプに見えないんですが」
「彼女は思いやりに満ちた女性ですからね」
アマイモンはうなずいた。
それから、杜山しえみのことを頭に思い浮かべながら続ける。
「でも、その思いやりの深さのせいで、他人のために無茶をすることがあるんです。だれかのためなら、命を失ってしまうかもしれないような危険にも立ち向かっていくんですよね。だから、ボクはそれを木の陰からハラハラしながら見ていて、本人には気づかれないよう、こっそり助けたりしています」
直後。
「「あるあるある!」」
男ふたりの台詞が見事に重なった。
宝生蝮を彼女に持つ柔造と、霧隠シュラを彼女に持つ雪男の声だ。
柔造と雪男はちょうどテーブルをはさんで向き合って座っている。
ふたりの視線が交差した。
次の瞬間。
ガタンッ……!
ふたり同時に音をたててパイプイスから立ちあがった。
先に口を開いたのは雪男だ。
「シュラさんは勝手気ままに振る舞っているようにも見えますが、自分のことは二の次三の次どころかぜんぜん考えないで、他人のために動くことがよくあります。シュラさんはたしかに強いですが、強いからこそ、他のだれもが恐がるようなことにも突き進んでいってしまう。だから、僕は、もう少し自分の身を大切にしてほしいと心配なんです」
そう力強い声で主張した。
だが、柔造も負けてはいない。
「ウチの蝮のほうが厄介やぞ。明陀のためやって思って、ひとりで抱えこんで、だれにも悩みを打ち明けず、だれにも助けを求めんと、不浄王の右眼を身体に入れるっちゅう危険まで冒して瀕死の重体になったんやからな。あのとき、俺は重体の蝮を背負って出張所にもどったんや。深く傷ついた蝮を見て、俺は気が気やなかったし、そんな状態やのに出張所で皆に土下座する蝮のそばにおって、俺はホンマに切なかったわ」
しばらく柔造と雪男は張り合うように立っていた。
しかし、ふと、少し肩の力が抜けたような様子になって、雪男がパイプイスに座った。
そのあと、柔造もパイプイスに座った。
「……俺様とエリザは国だからな、自分の国の者のために戦うのは当然だ」
ふいに、ギルベルトがエリザベータ・ヘーデルヴァーリについて語り出した。
その声は低い。
「だから、自分の国のためってのは、わかる。だが、エリザの場合、あのお坊ちゃんのためにやたらと頑張ったりするんだ」
お坊ちゃんとはローデリヒ・エーデルシュタインのことである。
ギルベルトは顔に影を落とし、話を続ける。
「エリザはあのお坊ちゃんのためにカンカンに怒ったりもする。ローデリヒさんのことを傷つけるのはゆるさないってな。ローデリヒさん、ローデリヒさんって、あのお坊ちゃんのことを大切にして、正直、俺は、エリザは俺よりあのお坊ちゃんを優先してるような気がしてならねーんだ……」
不憫な……。
そう他の四人は思い、ギルベルトに生温かい眼差しを向けた。
作品名:彼氏の言い分、振り回され王選手権 作家名:hujio