堕落者15
泣きながら、ぼんやりと、以前の、鈴との会話を思い出していた。跡部が幼稚舎を出る頃に、二人はイギリスへ行く。二人が願い綴った言葉は、今の二人にとって、あまりに酷だった。しかし私は、そんな事よりも、二人を前にして自分の薄情さを突きつけられた事に、涙していた。
むーちゃんに絵本を読み聞かせた事、今でもはっきり思い出せる。跡部が私に声を掛けてくれた事、今でも感謝している。まだ会ってから半年も経ってないのに、自分から骨を折ったのに、二人は私に優しくしてくれた。最初、幼稚舎の生活は、好き勝手に絵を描くだけになると覚悟していたけれど、退屈もせず毎日通えたのは、他でもない二人のお陰だった。けれど私は、いつも、これっきりの事だろうと思って、二人と一緒にいた。
私が二人の友達として、三人組としていられるのは、せいぜいこの三年ぐらい。後の六年間、私にとって長くは無いが、子供の彼らには、そうではない。この一時、誰かを幸せにし、泣かせた事など、この子達は忘れてしまうのだろう。
一昨日、心の隅にある二人への失意に気付いてしまった、自分のために涙して、何でもないと言って、私は二人へ笑いかけるのだろうか。
あの笹林は、もう、大人たちに片付けられてしまっていた。
2009/01/13