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堕落者17

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はい、としか答えられなかった。何にせよ、私が跡部に、むーちゃんに出来る事はそれぐらいしかなく、その返事は本心からだ。しかし私は、家に着いても、「こちらこそ」という言葉が引っかかっていた。ずるくも鈴に質問する。
「テディベアを贈る事には様々な意味がある。その一つに、親しい友人になろう、との意味合いもある。そう彼女は解釈した」
「じゃあ鈴は、そういう事でテディベアにしたの」
「ああ」
 親しい友人になろう、というのはあくまで好意でしかないが、あの家の事を思うと、おこがましい事だったかもしれない。
「ところで、シュタイフ社ってどういう会社」
「テディベア作りに有名な会社だ」
 詳しく聞けば、あのテディベアは約三万円程度との事だ。跡部の家にやるには相応しいかもしれないが、変な勘違いを生むかに思えた。私の今住んでいるマンションは高級マンションとの肩書きもあるし、鈴は、どの程度かは知らないが人気作家という立場だけれど、私がこの家に望むのは一般家庭の生活で、中流と呼ばれる程度の生活だ。例えば、私があのテディベアを強請っても、買って貰えないぐらいが望ましい。そういう立場が望ましく、事実私はそういう家庭で育った。人様にそんなものを与えられるような家庭では無い。
「人間は多種多様。自らよりも他人に何かを与えようとする人間がいてもおかしくない」
 と、鈴には言い返されてしまった。
そう言えたとしても、人は大抵、大多数を見て判断するので、その時、安易に誤った意図で取られても仕方が無い様に思った。
 しかしよくよく考えてみれば、どう判断されたところで、こちらもあちらも何かが変わる訳ではなかった。私が幼稚舎での彼らとの付き合いを断つ気は無いし、あの母親とこれから頻繁に会う事も無い。あちらにとって三万円のプレゼント等、あのローテーブルに積まれていたプレゼントの一つにしか過ぎないだろう。
 幼稚舎の行事で親が来る行事は多くあったが、保育参観に跡部の親が来た例は無いし、お遊戯会のような子供の晴れ舞台や、クリスマス会、豆まき、ひな祭りといった年中行事にも、彼の親は来なかった。心配は徒労に終わった事を、私は一人喜んでいた。
 そうしてうっかり、樺地の誕生日を聞きそびれていたのが、唯一悔やまれた事だ。思い出して日付は知っていたのだが、教えられてもいないのに、プレゼントを用意して渡す勇気はなかった。慰めに、来年までには聞く事を決意する。
 三月になると、第一ホールで音楽会が催された。木の芽組はピアノに合わせてのカスタネットによる演奏をした。若葉組はベルを使っての演奏だ。グループ毎に違う音程のベルを持ち、順番に振っていけば、一つの曲となって鳴り響く。練習はしたけれど、各々目の前に立っている先生を真似れば間違いはしない。それでも、ところどころ変な音を鳴らしながら、若葉組の発表は終わる。
 青葉組の歌と紅葉組のピアニカによる演奏も終わり、演奏もお開きとなった。私はむーちゃんのところへ行って、頭を撫でさせてもらうためだけに、彼の演奏振りを褒めた。彼を可愛がるのに満足し終わると、跡部がいない事に気付く。彼に聞いても知らないと言うので、鈴に探してもらおうと、むーちゃんを連れて鈴の元へ向かった。
 人がごった返す中、鈴の頭だけ一つ出ていて見つけやすかった。しかし、鈴は私に気付こうとしない。私の素振りだけで思いを読み取れる彼の筈だ。釈然としないまま、近づいて行くと、鈴が誰かと話しているのが分かる。
「かばじ、りん」
 見上げてばかりいて気付かなかったが、跡部がすぐそこにいた。
「今さがしに行くところだったんだぞ」
 そう言って私達の元に跡部は走り寄って来た。当初の目的は解決したが、鈴に話しかける人物が誰なのかは、人に隠れて見えない。
「さっきから、お母様と君のところのお父様が話していて、面白くないんだ」
 跡部は頬を膨らませて言った。
 無言のまま私は鈴のところへ向かう。先に声を掛けたのは決して鈴では無く。
「凛さん、お久しぶり」
 挨拶を掛けられたのは、跡部の母親からだった。しかし私は、あろう事か彼女に抱きしめられる。背後から突然だったので、ぎょっとした。
「あらあ、驚かせちゃった」
 彼女はすぐ私を解放すると、私の頭を撫でてにっこり笑う。
「演奏上手だったわよう。」
 何も言えないでいると、大人しいのねと微笑まれる。彼女が腰を上げる頃には、隣に跡部とむーちゃんも来た。
「天笠さん、すみません。私、一足先に帰りますわ」
「いえいえ、お忙しいようですが、お体には気をつけて下さい」
「ありがとうございます。お話余り出来なくて残念ですわ。では、景吾さん、崇弘さん、さようならしましょう」
 彼女は二人を引き連れて、さっさと去って行く。私は暫くその場に突っ立っていた。
 歩いて帰るような気も起こらず、鈴にテレポートをしてもらって家に着く。
「鈴、何話してたの」
「誕生日プレゼントのお礼の言葉を受け取り、彼女の話に十数分相槌を打ち、途中あなたの母親について聞かれたので、いないとだけ言った」
「私が養子って言ったの?」
「母親がいないと言った」
 これで合点行った。あの時彼女が私に抱きついたのは、彼女なりの謂れがあっての事だったのだ。彼女へ嘘を吐いた事にはなるが、わざわざ正しく言い伝えるべき事情では無いので、勝手に私の過去を思い描いてくれいた方が、私には助かる。
「そう。鈴、これからもそれでよろしく」
「御意」
 若葉組で過ごすのも残り僅かになってくる。そんな時期に、二回目の遠足があった。場所は五月頃に行った公園と同じだ。跡部は滑り台やブランコ等、次々私を連れ回す。そうするものの、ジャングルジムや、高さのあるアスレチックをあからさまに避けていた。私が本当に怖いのは昔落ちた事のある鉄棒なのだが、彼の優しさを素直に受け取る事にする。
移動するたびに走っていたので、遊びには疲れ知らずの子供の体でも流石に堪えて、ベンチに座って休憩する事にした。
「むーちゃん何してるかな」
「絵本でもよんでいるんじゃないかい」
 最初は平仮名も読めなかったむーちゃんも、この一年で成長したようだ。書き写すだけの教室遊びも、役に立ってはいるらしい。
「やっぱりむーちゃんは賢いね」
「君はいつもかばじばかりほめるけれど、僕の方がかしこいぞ」
「はいはい」
 跡部は確かにその資質もあるが、英才教育を受けているのだから、より特別だ。むーちゃんの方がよっぽどすごい。一歳年下でまだ幼いのに、跡部に置いて行かれる事も無く付き合えるだけ、尊敬出来る。
「君ってけっこう、僕に厳しいんじゃないかい」
「まあ、そうかもね」
「不公平だぞ」
「だって、跡部は天才じゃない」
 跡部は間を置いて言った。
「天才?僕が?」
「知らなかった?」
「知らなかったというか、……何だか、変な感じがする」
 それっきり、跡部は黙りこくった。このままでは彼は考えるのに没頭するため、別の話を振る。
「そういえば、テディベアはどうしてる?」
「……ああ、彼なら毎日僕といっしょにねているよ」
作品名:堕落者17 作家名:直美