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堕落者22

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 副作用なんだ、その答えがはっきりしていても、この感情の波はなんだろう。形がはっきりしていても、掴みどころのない、掴もうとしても、直ぐ身を引いて、けれど、やってくる。やっかいなものとわかっていても、姿を現せた、この感情は、もう表には出る事はなかった、あの時理解した、それの現れるルートはとっくに潰していたから、けれど、まだ別のルートから、私の元へやってくる。別れた世界にあったものが、この世界にもあるのかと、思い違いをして、やってくる。
 その思いをかみ締めながら、人の振りをする目の前の彼と、ケーキをたいらげた。
 跡部の御誕生日会には、鈴に車を出してもらって、テレポートした。家から出たのは、パーティに来る誰よりも遅かっただろう。私達が突然門の前に現れても、誰も気にする素振りもなく、親切にも、私達を迎えるためにいてくれたメイド達が道を案内してくれる。鈴にはいってきますと言い残した。
 私が鈴に持たされたのは、どこか高級そうな、クッキーの詰め合わせ。これが普通の、人の子の御誕生日会なら、その母親が奇麗に皿へ盛ってくれて、これらをテーブルに出してくれただろう。けれど、私の抱え持つこれが、今日、少なくとも誰の口にも入らない事は目に見えていた。
 随分と歩かされ、建物(やっぱり、家とは到底思えなかった)に入って案内されたのは、去年のような部屋ではなくて、もっと広い、それこそ、パーティで使うために用意されたように部屋で、中には丸テーブルがいくつも並べられていて、そこにはご馳走が並べられている。しかし、それらはどれも足が短く、私達が手を伸ばして直ぐ取れるような、ローテーブルだった。この日のために用意したのだろうか。部屋の入り口にいたメイドさんが、預かりますと申し出てくれたので、すでにプレゼントは手渡してある。
 この部屋に、子供だけしかいない。誰だかの親が付いてきたとか、そう言った人はいなくて、部屋の隅に執事やらメイドやらが立っているぐらいで、幼い声が飛び交っている。
「今日は来てくれてありがとう!さ、食べようじゃないか」
 むーちゃんを従わせ現れた跡部が、そう宣言する。皆、子供ながら行儀良く、皿に食べ物を盛って食べていく。子供に立食パーティはさすがに酷だと思ったのか、ちゃんと椅子も置いてあって、料理を盛った皿を置くテーブルは一人ひとりにあたっていなかったけれど、コップを置くぐらいの小さなテーブルがその椅子には備え付けられていて、食べては椅子にすわり、を繰り返し、いつしか自分の席が決まっていく。
 料理に目を奪われている子も結構いたけど、ちゃんと当初の目的を忘れず、跡部の傍によって、楽しげに食べている姿も見受けられる。私といえば、女の子達に弾かれて一人になってしまったむーちゃんと二人で食事を楽しんでいた。
「そういえば、むーちゃんはいつ誕生日?」
「……いちがつみっかです」
「へー、正月だね」
「……はい」
 これで、今度の誕生日には何かを贈れる。それにしても賢い子だ、私は、この子の年頃に、自分の誕生日なんか分かってなかった。正月なんて行事も、人から言われてぴんとこなかっただろう。
「去年とか、跡部に何か貰った?」
「……てでぃべあ、を」
 どう考えたって、鈴のパクりじゃないか。
「そっか」
「……あの」
「やあ、楽しんでくれてるかい」
 むーちゃんが何か言いかけ、跡部が弾んだ声でこちらへ来た。彼に付き添っていたあの女の子達も、今は食事に夢中らしい。
「跡部、おたんじょうびおめでとう」
「ああ、ありがとう。君が来てくれて、本当に嬉しいぞ」
 そうしていつもの、満面の笑みを浮かべる。
「そうそう、そういえば、おもってみたら、僕は、君のたんじょう日知らなかったんだぞ。一体、いつなんだい?」
 誕生日はかれこれ一週間以上前の話だ
「ヒントは水曜日」
「それじゃあ、分からないじゃないか」
「とっくに過ぎたよ」
「えー!」
 彼は、えらく純粋に驚いて、私を見る。
「何で教えてくれなかったんだい」
「何でって」
 尋ねられてもいないし、跡部と違って、お誕生会なんて開かない。
「まあいいぞ、とにかく、いつなんだい?」
「近くになったら教えるよ」
「なんだそれ」
「今聞いたって、忘れるかもしれないじゃない。だから、近くになったら教えてあげる」
 そう言うと、跡部はそれもそうだと納得して、女の子達のところに戻っていく。上手く免れたとほっと息をついて、再びむーちゃんに向き合う。
「あ、むーちゃん。さっき、何言いたかったの?」
「……りんさんのたんじょうび……」
 そう言われて、私はすぐに答えてしまいそうになった。けれど、思いとどまる。むーちゃんに言えば、跡部にも伝わってしまうかもしれない。
「ごめんねむーちゃん」
 可哀相な事をしてしまった。
 だけど、私には不満がないのだ。だから、これ以上満たされてしまったら、溢れて、涙が出るだろう。彼らが私の事を思ってくれているだけで十分だから、これ以上はもう、もらえない。



2009/07/12
 
 
作品名:堕落者22 作家名:直美