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堕落者23

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跡部のお誕生会の次の日、私は今更ながら、ひよちゃんに誕生日を教えてもらった。それは私にとってお手柄だった。二の舞いを踏まずに済み、当日、悩んだ末にお菓子にしようと決めて、以前から知りえていた彼の好物、ぬれせんべいを贈った。彼はいたって真面目にお礼の言葉を述べていたので、今の彼にとって、それは数あるおやつの中での一つだったのだと、やっと気付いた。
 正月には、むーちゃんの家を訪れるほど、傲慢にはなれず、幼稚舎が始まった初日に、彼へプレゼントを贈った。小さな幼稚舎の鞄に入るような物を選ぶと、小さな船のキーホルダーになった。むーちゃんはそれを受け取ると、鞄にはいれず、鞄につけて見せて、私を喜ばせてくれた。
 それから、行事に追われながら、日常を一つ一つ過ごしていく。
「たった今跡部景吾は攫われた」
 休日、そう鈴が呟いたのは、青葉組でいられるのもあと少しという頃だった。もうすぐ春がくるだろう、とでも言うような、そんな当たり前の事を語るのような口調で、彼は私にそれを知らせた。
「ええ?」
「十人組みの犯行だ」
 顔色を変えず告げる彼に、私はとうとう、寝転ばせていた身を起こす。
「彼は薬品によって気を失い、十人組みの内三人と共に車に乗っている」
「それ、跡部の家の人たち知ってるの」
「ああ。母親と出かけている時の事だ。彼らが頻繁に足を運ぶレストランの帰り、駐車場で隙を狙われ、今は彼らのアジトに向かっている」
「それ、どこか知ってる?」
「ああ」
 もし、誰も知らないところで、跡部一人だけがさらわれていたのなら、事は楽だ。それなら、一人分騙せば良い事だった。
「そのアジトの場所、鈴なら分かるでしょ?警察に通報すれば」
「銃や爆薬といった武器を所持している。警察が駆けつければ、何を仕出かすかわからない」
「じゃあ、鈴がその仲間の一味と称して、アジトの中や計画を洗いざらい吐けば」
「出来無い事も無い」
「いや、やっぱり、そんな事はいいや。鈴がテレポートで跡部を連れ出して、えーと、母親とか、今はどこにいる?」
「車で一先ず家に向かっている」
「じゃあ、跡部を門の前に置きざりにして。で、跡部には、誰かが自分を攫っただとか、鈴が跡部を助けただとか、記憶を失くして」
「いいのか」
「何が」
「以前、あなたは、彼の記憶を操作するのを拒んだだろう」
 それは自業自得なジャングルジムでの事。鈴の指摘にカッと頭に血が上らせると、しかし、鈴はすまなかったと一言言う。
「いいから。えーと、じゃあ、空間移動?だけでいい。跡部を家の門の前にテレポートさせて」
「御意」
 そう鈴が言った後、私はもう一度彼に尋ねる、跡部はどうなったのかと。意識を失ったままの跡部は、門の前に寝転んでいるらしい。
 次に鈴には犯罪者を演じさせた。これから起こるのは、どこか公衆電話かでの出来事。これから起こる犯罪を恐れ、犯行未遂に逃げた、意気地なしの一味として、まずは、跡部の家に電話をかける。
「お前のところのガキは、門の前に置いた」
 聞き覚えの無い、ハスキー声で断じる。彼は洗脳ができるけれど、わざわざ私の目の前でさせている。彼の手元にあるその電話は、事実この東京のどこかにある現物の公衆電話で、空中からコードが伸びている。浮かび上がった末端に触れる勇気は無い。
「お、俺は、たった今跡部の家のガキを攫おうとしたんだ。いたずら電話じゃねえ。俺たちは十人組みで、今しがたガキを攫ったところだったが、俺は恐くなって、もう、ガキだけは返した。だから嘘じゃ無えよ。なんなら、跡部財閥に確認とってみな。俺は思った。これから犯罪をするんだ、こんなガキに恐い思いをさせて、その家に身代金を要求して、その後、捕まるかもしれないと考えながら人生やるのは勘弁だと思った。だから、こうして今犯行を認めて、アジトの場所やその内装、俺たちが集めた武器、今回の計画を洗いざらい白状してやろうってんだ」
 淡々と動く口元に、まるで歪な笑みが見えてくるような、その物言い。知らない人の電話を聞くようで、居心地の悪いほどの、名演技だった。
 跡部には何が起こったのかわからないだろう。彼は、自分が攫われた事にすら気付いてなかったかもしれない。だから、彼に何かを聞いたって、何も答えられない。何か記憶を操作する必要は無い。
 その必要があるのは、犯罪者十人のみ。しかし、それも、私はやめた、どういう記憶を植え込むのか考えるのが面倒だったのと、目の前で非現実な出来事を見ただろう彼らが、発狂すれば儲け物だと思っていたのと。
 鈴には毎日、朝と夕方、新聞を出してもらっている。といっても、頼んでおきながら真面目に目を通した事はないが、幼稚舎へ行く前に、私は目当ての記事を探し出す。
「僕、昨日さらわれたんだ」
 跡部がそう言い出したのは、教室遊びの時間、わざわざ私の隣に座っての事だった。
 誘拐未遂、犯行グループは十人、ビルの一室に、銃を所有、そのうち三人は麻薬を使用していた疑いがあり。斜め読みをした記事が思い出される。
「大丈夫だった?」
「見てのとおりさ。さらわれた間、僕はねむっていて、何も知らないんだけどね」
 彼は残念そうに言う。昨日、大人たちに問い詰められでもしたのだろうか。
「無事でよかったね」
 そのうち三人は、麻薬を使用していた疑いがある。三人は口裏を合わせたように、子供が目の前で消えたと言った。誰が子供を門前の道に置き去りにしたのかと聞いても、誰もが首を振る。電話の主も分かっておらず、記憶錯誤が起こっている。しかし、家宅捜索をしても、薬物の所持は認められなかった。
「僕をさらって、どうするつもりだったんだろう」
「親からお金を脅し取るんだよ」
「おどしとる?」
「跡部の命が惜しければ、ヒャクマンエンを用意しろ、とか」
「僕をころすつもりだったのかい?」
 上ずった声で跡部は尋ねた。
「それはないよ。跡部とお金を交換するんだから、人質を殺しちゃあね。殺す事は無い」
 そう言った後、跡部はしみじみ頷いてみせて、神妙な面持ちで呟いた。
「僕と百万円を交換しようだなんて、ざんしんだなあ」
 彼の無自覚な皮肉に呆れつつ、確かに百万だったならさぞ滑稽だろうと思った。ニュース番組をもっと詳しく見ていれば、犯人の言い値も知れただろうけど、これから先私が知る事はない。
「皆が仲良くするために、楽しくいるために、決まりがあります」
 そう、教諭はおっしゃった。今日の教室遊びは「しゃかい」らしい。
「例えば、皆が皆、ブランコに乗るためには、どうしたら良いでしょう。誰かがブランコを独り占めしては、皆、乗れませんよね。だから、順番を守って遊びましょうという決まりがあります。代わりばんこで遊べば、皆がブランコに乗れて、皆が楽しくなれるでしょう。だから、そういう決まりがあります。順番は守ると、皆楽しくなります。順番を守らないと、誰かが泣くかもしれません。自分が泣くのは嫌でしょう?誰かが泣くのは嫌なものです。順番を守るというのは小さな事ですが、その小さなことで、皆が楽しくなれます。そして、皆が楽しいと、皆仲良くなれます」
 遊びや幼稚舎の生活を話しに絡めながら、時々演じて見せながら、朗々としゃべり続ける教諭たち。
作品名:堕落者23 作家名:直美