堕落者24
彼らが私と話してくれたこと、私と遊んでくれたこと、思い上がりな私をいつでも受け入れて、一緒にいてくれたこと、その無垢な瞳に私を映してくれたこと、言い挙げればきりがない、彼らが惜しみなく私にくれた気持ちは、私を満たした。あんまり満たされすぎて、不平をわざわざ探し出したり、わがままをしたりした。私はそうした自分の未熟さを承知しているけれど、いつまでたっても、彼らは幼いだの無知だのと、そう思うのを止めなかった。彼らは私を幸せにし、けれど私は、そうした事を時々忘れてしまっていたのだと、そういう全てを、私は忘れてはいけない。
「ほんとうにあなたは、かばじがすき、ですね」
褒めるのを装ってむーちゃんに抱きついていると、とうとうひよちゃんは、そう言葉を発した。
「ひよちゃんも好きだよ」
見透かされてしまった私は、慌てて、そう口走っていた。そうして、しまった、と心の中で呟く。
「うそ、ですよ」
私の言ったそれは、決して嘘偽りも無い言葉だったが、だからこそ、私は困惑していた。それは、むーちゃんに可愛いと告げてしまう事のように、私の中ではいつしか禁句になっていた。
「うそ、です。だってあなたは、ぼくにはそうして抱きつかない、でしょう」
私は一瞬にして、自らに訪れていた困惑を忘れた。そうして、ひよちゃんをまじまじと見る。今度は彼が困惑する番だった。私はむーちゃんから身を離すと、彼に向き合って、そっと抱きしめた。
「ちょっと、何するん、ですか」
つくづく私には自制心が無い。許しを得たと勘違いすれば、こうして自分の好きなようにしてしまう。こうなっては、彼が嫌がるまで離さないだろう。彼はたくさんの文句を私に浴びせたが、中々、腕の中で暴れたり、離せと言ったりしなかった。思いついて頭を撫でると、彼はより文句を募らせたが、止めろとは言ってくれない。そんな私達を、むーちゃんは微笑ましげに見守っていた。
楽しい毎日を送っていたのもあって、時が過ぎるのは早かった。私は誰にも知られずに誕生日を向かえ、跡部から、恒例の御誕生日会への招待状を貰う。
「今回は僕の家にとまりに来るんだぞ」
しかし、その誘い文句は違った。
「泊まりに?」
「ああ。かばじも一緒だぞ」
「他の子達は?」
「いないぞ。誕生日会には招待するけどね」
だからか、今、彼が一人でいるのは。特定の人だけを誘うのに、皆にばらす事は無いと配慮したのだろう。
「なんで他の子は泊まらないの」
「みんなをよべるほどのへやはないんだ」
そんな事は無いだろう。きっと、彼の家の部屋なら余っているに違いない。けれど流石に、沢山の人を泊まらせたくないと、誰か彼かにそんな忠告をされたのだろう。
「いろいろじゅんびしてくるんだぞ。あ、そうだ、だから、今年はプレゼントはいらないんだぞ」
「どうして?」
「君と一日過ごすことを、僕のプレゼントにするんだ。そうそう、プレゼントを先に指名する無礼はゆるしておくれよ」
そう言い残すと、跡部は私の元から去って行った。そして、私はやっと、しっくりくる言葉を見つけ出す。むーちゃんはきっと、人をあやすのが上手いのだ。そして、人の扱いが上手いというのは、今正に女の子達の元へ戻っていく、彼にこそ相応しい。彼は、私の去年の嘘を忘れてしまっている。
「りんさん」
声に振り向くと、ひよちゃんがいて、むーちゃんが後ろに控えていた。
「なにしてるん、です。はやくきて、下さい。でないと、あそんであげ、ませんよ」
そして私は納得する。ひよちゃんは誰よりも、私の扱いが上手い。
「ひよちゃんって、誕生日十二月五日だよね?」
「とつぜん何、ですか」
「忘れないようにね、確認確認」
私は絶対、忘れないけれど。
2009/07/20