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堕落者26

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「正しいと間違いは、ないんだ。跡部のお母さんのいう事が正しければ、跡部のいう事も正しい。これだけだと混乱するかもしれないけど、案外世の中はそうして出来てるものなの。そして、もし跡部が自分が正しいと証明したいなら、それは、とても大変。
 跡部のお母さんがあれを正しいといって、跡部がこれを正しいというように、この世界にいる皆には、それぞれ皆の正しいがあるものなんだ。だから、跡部がもし、自分の『正しい』を証明しようと思ったら、一人ひとりに、自分の正しさを見せつけて、歩き回らなきゃいけない。それも、見せつけるだけじゃ駄目だ、相手に納得させなきゃいけないんだ、それも、自分とは違う『正しい』を持つ人、一人ひとりに。もし、跡部が自分の正しさを証明したいと思っているなら、だけどね。
 跡部は別に、正しさを証明したいわけじゃないでしょ?自分がこれから生きていくのに、考えていくものさしが欲しいんでしょ?
 それこそね、一番難しい。それは、正直、私達の年齢で考える事じゃない。だからと言って、大人になってから考える事でもない。私達はね、それを考え続けなきゃいけないんだよ。
 正しいか、間違いか。それは決める必要の無い事だと、私は思う。だけど、誰だって、決まった事がないと、不安になるし、悩んでしまうから、跡部のように、何が正しいのか、決めたがる。だけど、そこは、不安になってでも、考え続けなければいけない事だ。
 だけど、それだけじゃあ、これから何もやっていけない。正しいか?間違いか?と思いながら、結局、分からなくて悩んで、何もしなくなってしまう。そうなっちゃ駄目。だから正しいか間違いかでは無くて、その代わりに、別の事を定めておくんだ。
 挨拶をされたら挨拶をし返すとか、有難うと言われたらどう致しましてと返事をするとか、そういったことを一つ一つ定めていくんだ。自分が何かされた時、自分はどう反応するかを考えるの。そうしていけば、少なくとも、自分が何を正しいと思っているのかが分かってくる。
 私がさっき、私達の年齢で考えるべきじゃないというのは、それだ。まだ、自分の事もよく知らないのに、何が正しくて間違いなのかを考えようとするなんて、早過ぎるんだ。だから、今はそうするよりも、自分の事ばかりを考えた方が良い。
 自分の事ばかり考える、というのは、もしかして自分勝手に聞こえるかもしれないけど、そんな事は無いよ。自分の思うがままでいるのは、悪い事じゃないし、それに、自分の事ばかり考えるのと、自分勝手は違う。
 自分勝手っていうのは、他人をないがしろにする事を言うんだ。跡部の周りの子達はどう?皆、例えば自分が楽しくなかったら、不満そうな顔をするでしょ。それって、ずるいと思わない?跡部は皆の事を考えて、遊びを提案するのに、皆は少しつまらなかったら、不満そうな顔をするんだよ。嫌な気持ちを顔に出すという事は、跡部の気持ちを考えていないという事だ。跡部が頭を捻って考えを出したのに、ただ不満だとだけ言うのは、自分勝手。そして、そうした行動は、他人の事まで考えないから、なる。
 自分勝手という言葉だと、勘違いしがちだ。そもそも、自分の事ばかり考えて生活するのは当たり前なんだよ。ふと他人を忘れてしまった時に、他人から悪く指摘されるものだから、思いのままに行動する事が悪い事なのだと思い込んじゃうけれど。そうじゃない。悪くは無い。ただ、その行動が目立ってしまうと、悪口の標的にされてしまうだけ。特に、他人の迷惑になるような事だったなら、悪口だけじゃ済まなくなるかもしれない、というだけ。
 だから、正しいとか、間違いとかじゃなくて、自分が何をしたいのかを考えれば良いだけなんだ。もし、跡部が、誰かに自分勝手だと罵られたくないなら、そうした素振りを見せなければ良い。誰かを困らせたくなかったら、他人を思いやって行動すればいい。もし、跡部がお母さんのいう事を正しいと思うんなら、それでいい。もし跡部が間違いを起こしてしまったら、それを笑ったり馬鹿にしたりする人は、必ずどこかにいるから、そうした人に出会ったときに、考えを改めるかどうかを、また決めたら良い。それにね、私は、今何が正しいか間違いかと考えるのは無意味だと思うけれど、跡部が悩みたいと思うなら、答えを見つけ出すまで悩んでも良いんだよ。跡部の好き勝手にすれば良いと言えば、冷たく聞こえるかもしれないけど、それが世の中というものだ。
 世の中世の中と言ってきたけれど、では、世の中とはなんだろう。世の中とは社会だ。社会とは環境だ。それも、人の手で作り変えられた環境だ。人の手が加わっている以上、人の考えが反映されて出来た環境だ。さっき、人は皆自分の事ばかり考えている、と私は言ったね。世の中はそういった人達の手によって出来てるんだ。何が正しくて何が間違いかじゃないんだ。誰もが自分のしたい事、叶えたい事を実現させようとして、そうした考えがぶつかり合って出来たのが世の中なんだ。
 そして、今私達の周りにあるのは、今まで生きてきた人達が、何が正しいかを争って残ったもの。その中には、誰かにとっての間違いが残っているかもしれないし、誰かにとっての正しいが、今私達の周りから無くなっているかもしれない。こういった事は、歴史を勉強していくとよく分かる。昔の人たちは、何が正しいと思って生きて、何が間違いと思って排除してきたのか、表れているからね。
 こうして正しいや間違いを考え続けると、結局分からなくなる。最後にはどうしても混乱してしまう。だって、正しいと間違いは、沢山あって、きりが無い。
そんな事で頭を悩ますのは、時間が過ぎていくだけだ。跡部にとって、それはよくないと、私は思うよ。
例えば、跡部が作家や芸術家を目指すなら、跡部は今、悩んでいても良い。それらの職業は悩む事が仕事みたいなものだからね。話が今までと違うじゃないか、と言われても仕方ないけど、正しいや間違いを定めるべきではないと言ったのは、こう言う事だ。跡部がしたい事、つまり、目指したい事によって、考えっていうのは変えていいんだ、変えなきゃいけないんだ。だから、そうしなきゃいけない時に、前もって正しいや間違いを決めておくと、もしかして、邪魔になるかもしれない。正しいと決めていた事と、目指したい事、どちらを選ぶか一々悩む羽目になるからね。
跡部は考えていくためのものさしが欲しいんだよね。跡部が私に相談したのは、『正しい』のものさし、『間違い』のものさしを見つけたいという事だった。そして、私はそれが跡部にとって良くないと指摘した。もし跡部がそのものさしを手に入れたら、どんなものもその二つだけで計ろうとするかもしれないと、心配に思ったからだ。世の中にいる皆が皆、違う考え、つまり違うものさしを持っているのに、二つだけではまかなえない事が目に見えている。そして、二つあったら、どちらを使うべきか、いちいち迷う羽目になる。
 私が跡部にアドバイスしたいのは、小さなものさしを沢山作っておくという事だ。挨拶をしたら挨拶をし返す、というものさし。有難うと言われたらどう致しましてと返事をする、というものさし。そうして作り置きしておいて、用途用途で使い分けていくんだ。
作品名:堕落者26 作家名:直美