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堕落者27

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自分が何を言ったのか、途切れ途切れにしか思い出せないほど、私は必死だった。
「じゃあ」
 跡部は目を見開いて、ずいとこちらに寄った。
「人間はけだものなのかい」
「私はそう思うよ」
「どうしてだい」
「人っていうの結局は生き物だからね。少し頭がよくて、手先が器用なだけだよ。どんなに頭が良かったところで、根本が生き物なんだから、獣って言っても間違いじゃないんじゃない?」
 跡部は再びずいと寄る。
「皆同じじゃないのかい」
「跡部は、私は何か知っている気がするって言ったね」
「そうだぞ」
「私が跡部と同じなら、私も知らなかったと思うよ」
 跡部がこちらに身を乗り出して、私の背が肘掛に当たる。
「すききらいがあってもいいのかい」
「跡部が好き嫌いを失くしたいなら、好きになる努力をすればいいんだよ。そうしたくないなら、そのままでいるしかないんだし、それでいいとおもうよ」
「いやだと思ったら努力をすればいいのかい」
「うん」
「そうじゃなかったら、ほっといてもいいのかい」
「うん」
「そんなの、さみしいじゃないか」
「そう思うなら、そうしなければいいんだよ」
「そうか」
「うん」
「そうかい」
 跡部が座り直すので、私もやっと体勢を立て直して、背もたれに背を預ける。
「そろそろ寝よう」
 呟くと、振り子時計は十時を回っている。
 私達はむーちゃんを挟んで、ベッドへ入った。ベッドはとてもふかふかとしていて、布もすべらかだけれど、私の家のベッドも同じぐらいだ。鈴はとても良いものを私に与えているのだと改めて気付く。跡部はリモコンを使って電気を消した。
「今日は、変な話をしてごめんね」
「そんなことないんだぞ。やっぱり、君と話せてよかった」
「そう」
「誕生日プレゼントありがとう」
「そう、喜んでくれてよかった」
 賢い子。いつか彼は、私より知識があるとのたまったけど、それは間違いじゃない。跡部は、自分の気持ちを言葉にする術を知ってしまっているから、獣だなんて言葉も浮かんだのだ。自分を理解しきれず、母親に諭されたままでいたのなら、悩まずに済んだのに。
今は、暖かな布団に包まれて、三人一緒。けれど、このまどろみに沈み、目を覚ましてしまったら、明日が来る。
 早起きをして、体を起こしてぼんやりしていると、いつしかメイドさんがやってきて、丁寧な挨拶の言葉をもらった。跡部たちも起こされて、どこかへ連れて行かれる。
着いた場所の、扉の向こうには、ガラス張りがあった。その透き通った向こうに、足のついた浴槽や、シャワーがあるのが見える。よく見れば、ガラス張りには取っ手が着いていて、それは浴室なのかと眠気覚ましに知る。私達の用は洗面台で、一人ひとり顔を洗ったり、タオルで拭いてもらったり、髪を櫛で梳かしてもらったりした。部屋に戻ると服に着替える。
 朝食はパンとオムレツと、彩り程度の野菜にオレンジジュースだった。夕食に比べ妥当だ。と思ってオムレツを割ってみると、半熟卵が覗く。よくよく見れば、白いものがとろけ、ピンク色の切れが黄色の中に咲いている。口に含んでみれば、卵の滑らかさと共に、口の中でチーズが溶け、ハムの旨みが広がった。パンもさっくりとした歯ざわりで、あまりの美味しさに寝起きの頭もすっきりと晴れる。
「楽しかったぞ、またとまりに来るんだぞ」
「はいはい。じゃあまたね、跡部、むーちゃん」
 彼ら二人と、数人のメイドさん達に見送られ、跡部の家を後にした。
「跡部の親はどうしてるの?」
 その日、家に帰ると、私は迷わず鈴に聞いた。
「この頃は国内国外共に出張が多く、跡部景一に跡部留美は同行している」
「へえ。じゃあ、祖父母は?って、イギリスへ旅行だったっけ。旅行行っちゃうまではどうしてたの?」
「同居しているが、部屋は離れていて、跡部景吾と生活を共にしていない。外出を頻繁にしている」
 鈴の言葉は簡潔すぎて実感がわき辛いが、跡部の家族は多忙らしかった。昨日、あの家には、使用人を除いて、跡部一人だったのだろうかと、私は不安になる。そしてそれは、いったいいつからだったのだろう。もしかして、去年のお誕生日会の時はすでに、それともその前から、彼はあの家の小さな主となっていたのかもしれない。そうでなければ、あれほどの催しを、彼の母親が望むだろうか。前にささやかなお誕生会を開いてくれたあの母親に、にぎやかなのは似合わなく思う。そしてわたしは、この頃ずっと彼の母親の姿を見てはいない。行事に顔を出したのは、若葉組の音楽会で最後ではないだろうか。跡部が攫われた日、彼女は一緒にいたらしいけれど、あれは、しばらくぶりの事だったのかもしれない。
 それから間もなくの事だった。
「りん、今日は僕も一緒に遊ぶぞ」
 もも組に向かおうとした私へ、彼はにっこりと微笑んだ。
「跡部、他の子は?」
「今日はりんたちとあそぶから、いないんだぞ」
「じゃあ、他の子は何して遊ぶの?」
「しんぱいないさ、あそびのていあんはしておいた。あとはかってにやってくれるだろうさ」
 教室を見回してみると、女の子達は、おもちゃ箱を持ち出していたり、画用紙とクレヨンを先生に尋ねていたり、折り紙を選んでいたり、おままごとの準備をしていたりした。そして丁度、数人の女の子達が、私達の横を駆けて通り過ぎる。外へ遊びに行くのだろうか。
 この、惚れ惚れとするような、子供の純白さはなんだろう。けれど私は、それを目の当たりにしているというのに、どこか釈然としないでいるのだった。跡部が私を急ぎたてるので、後ろ髪を引かれるような心地で、もも組へ向かう。
「あんた、誰、ですか」
 私の隣を見て、ひよちゃんは間髪入れずにそう言った。
「僕は跡部景吾だぞ。よろしく!」
 ひよちゃんが眉を顰めてこちらを見るので、私は慌てて言葉を探す。
「えーと、むーちゃんの親友で、私の友達なの」
「何言ってるんだい、かばじとりんはかぞくじゃないか」
 突然、何を言い出すか。
「ええ?」 
「君、僕のことそう思ってたのかい!心外だぞ」
「そうなん、ですか?」
 ひよちゃんは初耳だといわんばかりに私をみやる。
「違う違う。苗字からして違うじゃない。えーと、前におままごとしたことがあって、その事を言ってるん……」
「だから、さっきから君は何言ってるんだい?」
「跡部こそ何言ってるのー!?」
「もしかして、いぼきょうだいか、なにかなん、ですか?」
「もー!なわけないじゃない」
 ほんと、この子達ときたら、無駄に言葉を知ってるんだから。
 ひよちゃんの誤解を解こうと躍起になるが、跡部が横槍を入れ続け、気付けば午前の自由遊びがおわってしまった。
「君はそうとうのがんこ者だな」
「それは跡部でしょ」
 教室遊びに暇を持て余し、跡部が言った。
「だって、いっしょにねたじゃないか」
 返事を考えあぐねていると、親切に跡部は言葉を重ねる。
「お母様は、いつもお父様といっしょにねているんだ。なぜかって聞いたら、ふうふだからだそうだ。ふうふというのは家族だろう?だから、いっしょにねむれば家族なんだぞ」
 それを聞いて、合点いく。
「ああ、だからむーちゃん私も家族ってわけね」
「そうだぞ」
「へえ」
作品名:堕落者27 作家名:直美