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堕落者27

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 これまでの経緯の要因をあっさり知ってしまった私は、午前中の自分が恥ずかしくなった。
 昼食を一人過ごして、歯磨きを済まし、再びもも組へ向かうと、しかしそこには既に跡部がいた。
「おそいじゃないか」
「何でいるの?」
「なんだいそれ!ひどいじゃないか。午前中は遊べなかったから、今から遊ぶんだぞ」
 不満げなひよちゃんの視線が私に突き刺さるので、私の言うべき言葉を声に乗せる。
「午後はいつもお勉強会をしてるの。だから、残念だけど……」
「そうなのかい。なら、僕もそうする」
 そして、生徒は三人となった。
「跡部は先生やってよ」
「どうしてだい?先生は君なんだろう?」
「だけど、そんな問題、跡部だったら自分で採点できるじゃない」
 毎日の勉強内容を決めるのはひよちゃんで、それは大抵、教室遊びの内容となる。今日は「りか」で、動物について教えてもらったらしく、私にプリントを見せながら、これと同じような問題を作れと私に依頼した。その問題というのは「なかまはどれでしょう」と尋ねるものだ。例えば、プリントの最初には鶏が描かれていて、そのすぐ下には魚やトカゲやスズメや犬が描き出されている。鶏の足元や、その下に描かれた動物それぞれの頭上には、小さな点が一つずつふられていて、仲間同士を線で結ぶというものだった。
「これは、きょうしつあそびごっこなんだろう?それなら僕がせいとでもいいじゃないか」
 私は、お勉強会と言っておいたような気がしないでもない。
 私はため息を付きながら、手だけは動かしていた。ひよちゃんに依頼されてしまった私は、教諭から数十枚ほど紙をもらっておいて、それらに問題を書き出している。最初のうちは動物の名前で問題を解いてもらっていたが、それだけではネタが尽きてしまって、しまいにはイラストを描き出さなければやっていけない。
「それにしても、君、絵が上手じゃないか」
 三年間、美術学校に通っていた事のある私だ。一般の人より、それには自負している。
「ありがとう」
「画家にでもなるのかい?」
「さあね。画家はなりたくてなれるもんじゃないし」
「そうなのかい」
「誰かに認められないとやってけない職業だよ。誰にも認められなければ、何にもなれない」
 そこまで言って、子供に言い聞かせるような話じゃないと気付いた。
「そうか。なら、今僕が君をみとめさえすれば、君は今からでも画家になれるのかい」
「そういうことだね」
 上ずりそうな声を抑えながら、私は答える。
「じゃあ、君は今から画家だぞ」
「ありがとう」
「もっとうれしそうにしたらどうだい」
 私は問題を作るのに忙しい振りをして、言葉を返さなかった。
 それなりに枚数を作り終えると、私は三人の採点に取り掛かる。跡部のものは後回しをして、ひよちゃんとむーちゃんのを交互に丸をつけていく。丸続きに弾まされた手は、しかし、ある問題に差し掛かってとまった。
「ひよちゃん、ここだけ間違ってる」
 それは、そうなるだろうと意図して作った問題だった。魚の仲間という答えの選択枝に、サメとクジラとアザラシとおたまじゃくしを描いた、少し意地の悪いものだった。
 おたまじゃくしには騙されなかったようだが、その紙には、サメとクジラの二つに線が引かれている。
「目の付け所はいいね。サメとクジラのどっちかは正解なんだ。とりあえず、どっちか選んでみて」
 すると、ひよちゃんはサメを指差した。
「正解!じゃあ、なんでこっちを選んだ?」
「魚には、このせんがかかれて、ましたから」
 そうして、ひよちゃんは魚のイラストに引かれた一本の線を指差す。それはえらとして描いたものだった。サメにはその線を三本引いていたが、彼はちゃんと同じものだとみなしてくれていたらしい。
「そうそう。これはえらといってね、魚には必ずあって、ここで息をするの。正解正解。じゃあ、なんでクジラと迷ったの?」
「形が同じだったから、です」
 私の思惑に見事はまってしまっている。
「そっか。でも、本当に同じ形かな」
 そう言うと、ひよちゃんは首を傾げる。私は紙の上下を反転させて、彼に見やすいようにした。
「えらともう一つ、魚と同じところがあるんだ。探してみて」
 それをひよちゃんの手元へ返すと、彼はイラストとにらめっこして黙り込んだ。
「わかったぞ!」
「はい跡部言わないで」
「もう!なんでだい、僕だってせいとなんだから、僕が答えたっていいじゃないか」
「こういうのはね、自分で見つけるのが醍醐味なの」
 そう言うと、それもそうかと、跡部は大人しくなる。相変わらず物分りの良い奴だ。
 彼が考えている間に、他に解答していた問題の丸付けをし終えてしまった。そして、どうやら彼の間違ったのは、今正に彼のしかめ面を作らせている、その一問だけだったのだという事が分かる。
「はい、ひよちゃん、時間切れ」
 彼は悔しそうに眉を下げ、こちらを向く。
「私の口から答えを聞く前に、その問題を正解してた、むーちゃんに聞いてみるか」
「僕だってせいかいしたぞ」
「むーちゃんに聞いた後に聞くから。むーちゃん?この魚とサメ、えらの他に似てるところはどこかわかる?」
 むーちゃんは腕を伸ばすと、魚とサメの尻尾を指差した。
「正解!そう、しっぽが同じなんだ」
「僕もわかってたんだぞ」
 跡部の主張を聞き届けながらむーちゃんを撫でていると、しかし、ひよちゃんは非難の声をあげる。
「同じ形じゃない、ですか」
 ひよちゃんが言うとおり、サメとクジラの尾びれの形は、大差なく描かれている。
「形じゃなくて、尻尾のつき方なんだ。サメや魚は尻尾が縦についていて、クジラは横についているんだ」
 そういうと、ひよちゃんは、ああと声を漏らした。
「魚はね、泳ぐ時、体を横にくねらせて泳ぐの。クジラはね、泳ぐ時、体を上下に動かして泳ぐんだよ」
「なんで、ですか。クジラはどうしてさかなと同じになれなかったん、ですか」
「クジラは魚になりたかったわけじゃないからね。それに、クジラはもともと、足が四つ付いていたんだ」
「そうなん、ですか」
「うん。だけどね、クジラは体が大きくて、体が重かったんだ。だから、水がとても好きだったの。ほら、水の中って、体がふわふわするでしょ?クジラは自分の体が重いけど、水の中だと軽くなるから、クジラはそれを気に入って、水の中にいつづけたいと思ったの。そうすると、クジラはそのうち泳ぎを覚えて、今度は、もっと上手に泳ぎたいと思うようになって、それから足がなくなって、いつのまにか尾ひれがついて、泳ぎがとても上手になったの。だけど、魚になりたいと思ったわけじゃないから、魚と同じ尾ひれにはならなかったんだよ」
「そうなん、ですか。そうしたいと思えば、体はへんかするものなん、ですか」
「うーん。それとはちょっと違うね。私が言いまちがったね。クジラはそうしたいって思っただけじゃなくて、泳ぎを覚えようと練習し始めたの。何回も何回も練習して、だから泳ぎを覚えて、そして、もっと上手くなるためにひたすら泳ぎ続けて、そうしているうちに、気付いたら泳ぎの達人になってて、いつのまにか、同じ泳ぎの達人である魚と似た姿になってしまっていたんだ」



2009/08/03
作品名:堕落者27 作家名:直美