天に飛び立つ銀の鳩
ハリーのことをとても愛おしく思う。もたらされるニュースに手袋をして触れるから、リーマスにとって世界はとても曖昧なものになっていたけれど、その中でこの気持ちだけが唯一確かなものだった。いとけない小さな子どもを抱き上げたときのことを覚えている。流れた時間の重さを思い、ともに過ごした時間の深さを思った。愛おしい気持ちをそのままに手を伸ばそうとして、彼は自分の右腕がないのに気付く。どこを探しても見つからないから、リーマスはハリーに謝るしかない。ごめんね。君のことをとてもあいしているんだよ。でも右腕がないんだ。ハリーはそっと首を振る。いいんですよ。いいんです。風が冷たいから、リーマスは手袋をして、重たいコートをはおって、帽子を深く被って、ちいさくちいさく縮こまる。痛みを遮断するためにアンテナの感度を下げる。綺麗なものも眩しいものも遠ざける。けれど、うずくまるわたしにハリーは手を伸べてくれる。いっしょにいきましょうと、そう言ってくれるかもしれない。
ぎこちなく微笑みかけると、ハリーは静かに笑みを返してくれた。それから、ごめんなさい、と小さく謝った。
「行きましょう。パイが冷めちゃう」
言葉が通じない異国の人間に話しかけるように、ゆっくりとハリーは発音した。
そうだね、とリーマスは答える。
胸に抱えたパイはまだ温かい。生きている人間にはこういうものが必要なのだ。それがひどく切なかった。