二次創作小説やBL小説が読める!投稿できる!二次小説投稿コミュニティ!

オリジナル小説 https://novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
二次創作小説投稿サイト「2.novelist.jp」

みんな目金を好きになる

INDEX|2ページ/10ページ|

次のページ前のページ
 

眼鏡侵食


 この日、雷門が恋に落ちた。


 二月。雷門の若い学生が気になる話題はバレンタインデーであった。
 駅前や商店街にもバレンタイン用の華やかなチョコレートが飾られ、道行く人の目を惹き付けている。
 当然、学校新聞を作成している新聞部も話題に乗り出さない手はない。
 部室では部長が嬉々としてテーマのタイトルを練り、部員に聞かせる。
「今度の新聞のテーマは“バレンタインのチョコを一番手に入れるイイ男は誰?”かな」
「それが無難でしょうね」
「予想の候補は今絶好調のサッカー部から豪炎寺。それとも目金?みたいなのでどうだろう。女子ウケとして煽るのは大事だと思うんだ」
「部長」
 待ったをかける部員。
「それは去年“サッカー部のイイ男”でやったじゃないですか。栗松くんに意外性を持たせたけれど、言わずもがなになりましたよね」
「誰々のチョコを射止めるのは誰?みたいなのも良いと思うんです」
 他の部員も意見しだした。
「皆の言いたい気持ちはわかるさ。だけどな……今回、俺なりに勝算があるんだよ。まあ、聞いてくれ」
 部長は皆を椅子に座らせ、ホワイトボードの前に立つ。
「今度の新聞のバレンタインテーマ。俺はサッカー部二年・目金くんをダークホースに推したい」
 目金。なぜよりにもよって目金なのだと、部員はざわついた。
「目金くんはベンチが多く、公式試合に出ていた記録は限りなく少ない。ある意味、結果の読めない人物なんだ」
「部長。さっきも言いましたが、去年のテーマの二の舞になりませんか」
「ならない。去年は俺たちが意外性として名前を出して、それっきりだった。けどね、今度は違う」
 部長の瞳が決意したように鋭さを増し、ポケットに手を入れる。
 そして取り出したものを部員に見せた。


「見てくれ」
 小さな瓶をかざして揺らす。
「ずばり。これは“惚れ薬”だ」
「は……?」
 状況が飲み込めない部員。無理も無い。惚れ薬などファンタジー世界の代物だ。
「サッカーが次元を越し、洗脳装置まである昨今。惚れ薬作成など、どうという事は無いのさ」
「ですが、そんなものが……」
「理科室の小此木先生にお願い頂いた。目金くんの髪の毛を極秘裏に収集して調合し、飲めばたちまち目金くんが好きになる魔法の薬なのだ」
 この人、狂ってる。部員は部長の狂気の片鱗に感付き始めた。
「部長。これは情報操作じゃないですか。いくら意外性を持たせるからといって、僕らはあくまで真実をですね……」
 一人が席を立ち、意見する。だが部長は動じず、放つ。
「それがどうした。去年俺たちが味わった屈辱、忘れてはいないよな」
 屈辱――――。あれだけ活躍したサッカー部の活躍を満足いくような記事に出来なかった事。
 部長だけではない、他の新聞部員も苦汁を味あわされていた。
「皆が驚き、感動する記事を作ってみたいとは思わないか」
「僕だって思います。だけど、悪魔に魂を売っちゃいけない」
「悪魔、か。俺は悪魔にだってすがりたいさ。もうあんな思い、したくない」
 瓶を胸元に持っていき、自嘲気味に口の端を上げる部長。近い席にいた部員がある事に気付いた。
「部長……。それ……空、じゃないですか……?」
 問いかける声が震えた。まさかの可能性が怖い。
 部員たちは息を呑み、瓶に注目する。部長の持つ手は何も入っていないのを示すように、軽そうなのだ。
「ご名答。もうバラまいて来ちゃった」
「な、なんだって!!」
 あっさり答える部長に驚愕する部員たち。
「雷門中の水に溶け込んで、今頃皆の口の中に入っているさ」
 今度は青ざめた。この時期、バレンタインに関した菓子作りで家庭科の調理実習を行うクラスが多く、もう既に水を使ってしまった者もいる。
「部長。あんたって人は」
「見損ないました。貴方の新聞に対する情熱を尊敬していたのに」
 非難する部員たち。しかし、ある者がぽつりと呟く。
「でも、目金くんってカッコ良いですよね」
 ざざっ。発言をした部員の周りにいた者が一斉に離れた。
「うん。特にあの眼鏡良いよな……いかにも眼鏡!って感じで」
 もう一人現れる。部員の中に症状を表した者が出始めた。これではいつかの雷門区域に起こった洗脳事件の再来だ。
 恐怖をする一方で、部長の非道な野望をそう悪いとも思えなくなってきていた。寧ろ、ナイスアイディアと褒めたくなる。そんな部員の変化を眺めながら部長はほくそ笑む。
「徐々に効いてきているようだな。かくいう俺も、初めどうかと思ったが今は清々しい。だって、目金は最っ高にイイ男だろ?」
 部長その人も水を飲んでいた。
「ぶ、部長っ!」
 一人が慌てたように挙手する。
「どうした」
「俺、眼鏡買いに行って良いっすか?目金と同じデザインの眼鏡が欲しいんです」
「良いだろう。丁度、俺も欲しくなった所だ。あと目金“くん”だ。カリスマは称えねばならない」
「はっ。肝に銘じておきます」
 部長は頷き、その部員と共に部室を出て行った。彼らの後をついていく部員までいる。
 元から眼鏡をかけていた女生徒もフレーム変更を考え出していた。